「スペースX」「テスラ・モーターズ」「ソーラーシティ」「ニューラリンク」……ジョブズ、ザッカーバーグ、ベゾスを超えた「世界を変える起業家」の正体とは?イーロン・マスクの「破壊的実行力」をつくる14のルールを徹底解説した新刊『イーロン・マスク 世界をつくり変える男』(竹内一正著)。この連載ではそのエッセンスや、最新のイーロン・トピックを解説していきます。

火星ロケット「BFR」、
ついに2019年にテスト打ち上げか

イーロン・マスクは今年3月、テキサス州で開催されたイベントにサプライズ登場すると、「火星を目指す巨大ロケット『BFR(ビッグ・ファルコン・ロケット)』のテスト打上げを来年2019年に行う」と突如発表し、会場の観衆を驚かせました。
イーロンによると、BFRのテスト打上げは、短い時間の上昇と降下となる可能性が強いとのことですが、2022年に火星に向けて無人のBFRを打上げる計画を既に発表しており、そこに向けて開発に拍車をかける狙いも大いにあるのでしょう。
全長106mの巨大ロケットBFRは、液体メタンを燃料とするラプター・エンジンを31基、そして宇宙船には6基を搭載して、その推進力はこれまで史上最大だったロケット「サターンV型」を大きく超える強力な設計となっています。

ただ、スペースXがこれまで打上げてきたファルコン9、ファルコン・ヘビーで使ったマーリン・エンジンとは違うラプター・エンジンは新設計のエンジンとなり、開発ハードルがさらに高くなることは言うまでもありません。
マーリン・エンジンはケロシンを燃料としてきましたが、ラプター・エンジンが液体メタンを使用する理由は、火星でメタンを採取できる可能性があるからです。地球から火星往復の燃料をロケットに積んでいくとなると燃料タンクが巨大にならざるを得ません。しかし、火星で帰りの燃料を積めるなら、ロケットサイズも抑えることが可能となるのです。

そもそも、液体メタンは燃料として優れた点があります。まず、単位密度当たりの推進力がより大きくなるので、燃料タンクの小型化が可能です。また、ケロシンと違って煤が発生しないので、エンジン内の流路に煤が溜まらず、長期間の運行に適しています。さらに、分子量が大きいので漏れにくく、蒸発しにくいので長期間の使用に都合が良いのです。ちなみに、日本ではIHIがメタン・エンジンの開発を進めています。

しかし、ロケット・エンジン開発は簡単ではありません。多くの困難が待ち受けています。スペースXはこれまでマーリン・エンジンを改良して国際宇宙ステーションに物資を届け、1段目ロケットの再利用までこぎつけてきましたが、その間の失敗は目を覆いたくなるようなものばかりでした。
その困難を打ち破ることが出来たのは、スペースXの優秀なエンジニアたちの不屈の精神と破格の努力があったからです。

聖人君主ではない嫌な上司

壮大な目標を掲げ、爆走を続けるイーロン・マスクですが、誰からも愛される、心優しい上司というわけではまったくないようです。

設計の細部にまで口を出し、部下の手柄でも自分がすべてやったようにマスコミに言ってしまう。感情に任せて「くそったれ!こんなこともできないのか」と部下を怒鳴り上げることも珍しくありません。無理な日程を平気で公表し、部下への要求はエベレストより高いワンマン経営者です。
相手の立場や状況をよく考えず発言するのは、なにも部下にだけでなく、外部にも同様です。ある時、商談に来た設備会社の営業マンにイーロンはいきなり「どうして会わないといけないんだ」と問い正したかと思うと、連邦航空局の役人が相手でもバカ呼ばわりして、騒動になったこともありました。強い信念を持ち、妥協しないイーロンと意見が合わず、辞めていく部下も少なくありません。

しかし、相手の気持ちを推し量ったり、組織の調和を重んじていては、常識破りの挑戦をすることはできません。ワンマンだからこそ、短期間で歴史を乗り換える偉業を成し遂げることができるのです。
イーロンはスペースXの宇宙への挑戦についてこう言っていました。「人生には自分自身を奮い立たせるような目標が必要なんだ。毎朝、目を覚ました時、人類の一員であることに喜びを感じられるような目標だ。これが、われわれが目標としていることだ」

スペースXは、3月後半からの1ヵ月間にファルコン9を5回も打ち上げると発表しました。その中には1週間で3回打ち上げる計画も入っています。とはいっても、大きなことを言って世間の注目を集めるのがイーロンのやり方だと冷静に見ている人もいます。しかし、話し半分としてもスゴイことに間違いありません。

クルマもロケットも自律運転の時代

3月18日、Uberが進めるクルマの自動運転の試験走行中に歩行者をはね、死亡させる事故が起き、衝撃が走りました。アリゾナ州で起きたこの事故は、横断歩道でない所で道路を渡ろうとしていた49歳の歩行者が犠牲となり、Uberの自動運転車には管理担当者が乗っていました。Uberはこれを受けてすぐさま試験走行の中止を決定しました。

2016年にテスラのモデルSがフロリダ州で自動運転(オートパイロット)モードで走行中に、前を急に横切ってきたトラックをよけきれず衝突し、モデルSのドライバーが死亡する事故が起きた時と対照的な対応となりました。
テスラの事故の時も、全米のマスコミから「オートパイロットは使用中止すべきだ」と声が上がりましたが、イーロンはオートパイロット続行を決定。統計的には、米国では1.6億km走行で1件の死亡事故が起きているが、テスラのオートパイロットでユーザーたちが走行した距離は合計2億km以上であり、これらを比較すると、「オートパイロットは人間が運転するより安全だ」とイーロンは説明しました。

その後NTSB(米国運輸安全委員会)はテスラ車の事故分析結果を発表。原因は3つあり、トラック運転手の急な運転行動、モデルSのドライバーだったブラウン氏がオートパイロットに過度に頼っていたこと。そして、テスラのオートパイロットは事故の起きた道路状況に適していなかったことでした。
モデルSのブラウン氏は事故前の37分間の内、わずか25秒しかハンドルに手をかけてなく、その間にオートパイロットから警告メッセージが7回発せられていました。テスラ社はその後、運転手が警告メッセージに従わなかった場合は自動運転を停止させる機能を追加しました。

Uberの歩行者死亡と、テスラの運転手死亡では意味合いが違いますが、それでもクルマの自動運転は紆余曲折を経ながらも進んでいくことは間違いないでしょう。

そして、自律運転はなにもクルマだけでなく、ロケットも自律運転の時代入っていたのです。
スペースXが2017年2月に打上げたファルコン9では、地上レーダーを駆使し、飛行追跡コンピュータと睨めっこしながら地上管制室の数多くのスタッフが右往左往するという60年以上の歴史を持つ“伝統的”なシステムから卒業し、GPSを搭載しコンピュータで制御する自律飛行システムで打上げられたのでした。空軍のレーダー使用料もスタッフ費用も削減でき、それ以上にファルコン・ヘビーのように3基も機体が飛行して着陸までするという複雑な制御には自律飛行システムは欠かせない武器だったのです。

スペースXが今年中に予定している月軌道へ民間人を乗せての有人飛行では、この自律飛行システムをさらに進化させて、宇宙飛行士が同乗する必要のない飛行を計画しています。クルマもロケットも、人は乗ってるだけで操縦はしない。そんな時代がやってこようとしています。