「スペースX」「テスラ・モーターズ」「ソーラーシティ」「ニューラリンク」……ジョブズ、ザッカーバーグ、ベゾスを超えた「世界を変える起業家」の正体とは? イーロン・マスクの「破壊的実行力」をつくる14のルールを徹底解説した新刊『イーロン・マスク 世界をつくり変える男』(竹内一正著)。この連載ではそのエッセンスや、最新のイーロン・トピックを解説していきます。

多少なりともイーロン・マスクを知っている人にとっては、むしろ「テスラモーターズのCEO」としての顔の方に馴染みがあるかもしれません。イーロン・マスクは2004年に電気自動車会社「テスラモーターズ」の起ち上げに参画し、会長に就任し、現在はCEOも兼務しています。

宇宙ロケットと電気自動車。
一見すると、まったく関係ない事業を始めたように感じるかもしれませんが、決してそうではありません。イーロンに言わせれば「人類が火星に移住するロケットを作り上げるにはもう少し時間がかかる。それまでに地球環境の破壊が進んでしまうので、排気ガスを撒き散らすガソリン車に代わり、世界中に電気自動車(EV)を走らせよう」というわけです。

理屈はわかります。しかし、そんな巨大な事業を同時に二つも起ち上げるなんて、並の経営者の考えることではありません。しかも、「細々と電気自動車を製造し、少しずつシェアを伸ばしていこう」なんてショボイ発想はイーロンにはありませんでした。

世界で最も売れている自動車を電気自動車にする

イーロン・マスクは「電気自動車の年間販売台数を、世界中で1億台にする」と発言したのです。

年間販売台数1億台。
この数字は「世界中で一年間に販売される自動車の台数」そのものです。つまり、イーロンは「新たに車を購入する人は、すべて電気自動車になる」という未来を実現させようとしているのです。たしかに、少し前から自動車業界では、いわゆるガソリン車から排気ガスをまき散らさない車(電気自動車や水素燃料電池車)への移行が緩やかに始まっています。

しかし、イーロン・マスクほど「本気でガソリン車をなくそう」と考え、実施している自動車メーカーはテスラ創業期の2004年頃にはありませんでした。現実的には「時代の流れは意識するけど、本丸のガソリン車ビジネスは絶対守るぞ」というのが既存自動車メーカーの本音だったのです。

ところが、イーロン・マスクは違いました。彼が目線の先に見据えているのは「自らのビジネスの成功」なんてものではなく、「世界の未来」であり「実現させたい理想」だからです。イーロン・マスクが凄まじいのは「電気自動車の販売台数を1億台にする」と言うときに、「テスラ車の販売台数を……」とは言わなかったところです。

彼は何も、テスラで金儲けをしたいわけでもなく、テスラの株価を上げたいわけでもありません。「新しい世界」「世の中の未来」を思い描き、創造しようとしているのです。未来の街を走り回っている車が電気自動車であれば、それがテスラだろうが、他社製だろうが構わないのです。

マイクロソフト社の創業者ビル・ゲイツと比較するとその姿勢は対照的です。ゲイツは「世界のすべてのPCに、マイクロソフトのソフトウェアを搭載すること」を目標にし、市場の独占を図りました。ライバル企業は徹底的に撃退して帝国を築き、ゲイツは世界一の大金持ちになったのです。インターネットブラウザーを世界で初めて作り出したネットスケープ社に対しては、マイクロソフトはOSを牛耳っているという独占的な立場を利用して、これを叩き潰したことはPC関係者の間では有名な事件です。

こうしたビル・ゲイツの強欲とも思える姿勢は彼だけでなく、程度の差こそあれ20世紀の
経営者にとって、共通であり常識でした。だからこそ、イーロン・マスクはこれまでにない、極めて特異で興味深いビジネスリーダーと言えます。事実テスラは、自社で開発した虎の子の電気自動車の重要特許でさえ、一般に無償で公開し、誰もが使えるようにしてEVの普及を加速しようとしています。

ポルシェより速いEVを作れ!

電気自動車がいかに地球に優しかったとしても、長距離ドライブが可能で、スピードが出るといった車としての性能が根本的に劣っていたら、ユーザーは見向きもしません。もちろん、イーロンはそこにも徹底的にこだわっていて、テスラが開発した第一号であるEVスポーツカー「ロードスター」の最高速度は時速210km。とりわけ、スタートダッシュの素晴らしさはファンを熱狂させました。

テスラ「ロードスター」 fogcat5 - https://www.flickr.com/photos/fogcat5/255000227/

すると「ロードスターとポルシェはどちらが速いのか」という話題が沸騰。自動車メディアの「SPEED」がこの対決動画をネットに公開したほどでした。結果は、0~400mでの対決でテスラが圧勝。アクセルを踏み込んだ瞬間から、ポルシェを置き去りにし、ロードスターは走行性能の素晴らしさをみせつけました。また、電気自動車最大の弱点といわれる「走行距離」についても、ロードスターは一度の充電で走行できる距離が394km。東京から名古屋までが約360kmですから、充電なしで走破できる距離としては十分です。イーロン・マスクとテスラの優秀なエンジニアたちは、走行距離の面でもガソリン車に引けを取らないレベルを実現させたのです。

しかし、それだけで彼が描く未来が実現できるわけではありません。ロードスターの販売価格は、じつに10万ドル(約1000万円)。とても一般大衆が手にできる代物ではありませんでした。イーロン自身もそれはわかっていて「我々のEVはエコカーではなく、プレミアカーだ」と言ってロードスターを送り出しました。それでも、一部の金持ちにしか手が届かないのであれば「電気自動車、年間1億台」なんて未来は絶対に訪れません。

高性能の電気自動車をいかに安く、大量に作るか。
テスラはロードスターの次に高級EVセダン「モデルS」などを登場させながらも、ずっとその難題に挑み続けてきました。そして、ついに2017年7月、テスラ初にして待望の大衆車「モデル3」(3万5000ドル・約350万円)が完成しました。真の大衆車と言うには、まだ少し高価な気もしますが、それでも一般の人に手が届くところまできていることは事実です。「モデル3」の期待の高さはその事前の予約台数に現れています。予約台数は50万台を超え関係者を驚かせただけでなく、1台あたり1000ドルの予約金の合計は約5億ドル(約500億円)に達し、売上高は175億ドル(約1兆7500億円)にもなるスケールです。それだけの人が「テスラに乗りたい」と思っているわけです。

BMWもメルセデスも凌駕するテスラの大衆向けEV車「モデル3」の人気は極めて高いのですが、問題は、50万台も大量生産できるかです。なぜならテスラはこれまで年間で10万台も作ったことはありません。本当の大量生産を経験するテスラの真価が問われるのは、これからです。