「財務省は大変なんだろ。課長クラスにまでマスコミが貼りついているって本当か」

 森嶋は話題を変えるために聞いた。

「日本は現在、四面楚歌の状態。このままいけば、日本経済は遠からず破綻。誰かが、太平洋戦争の前みたいだって」

「引くことも進むこともできない状態。国民の中にも閉塞感がまん延して、それが政府に向けられている。外国なら、とっくに暴動が起こってもおかしくないって、ハーバードの教授が言ってた。ノーベル賞受賞者だぜ」

「たしかにそうね。不満はおできみたいなもの。膨れ上がって、ちょっとしたきっかけで爆発する。アメリカや外国では、それがかなり過激になって現われる。日本じゃ、大きな爆発はないからね。やはりいい国なのよ。ほどほどにみんなが豊かだからでしょうね。だから意外と深刻さがない」

 たしかにその通りなのだろう。しかし、国民の不満は選挙に現れる。だから、政治家は必要以上に国民に媚びを売る。

「何か起こる前に手を打たなきゃならないのよ。政治家は何をしているのかしらね。日本の状態の深刻さが分かっているのかしら。アメリカじゃ、日本経済はかなり深刻だとみてる。アメリカだって同じなのに」

「ハーバードじゃ、前の地震のとき日本は1年持たないっていう経済学者もいた。それから何年もたってるんだけどね。しかし、日本が危ないってことは、アメリカも危険だってことだ。日本が破綻したら、その影響は世界に広がる」

「そんなこと分かってる。だけど、問題はそれで儲けようって人たちが多くいること。戦争さえもマネーゲームの対象になる時代なの」

 でも、と言って優美子は考え込んだ。

「さっきの話だけど、もし東京に東日本大震災レベルの地震が起こったら、日本はとんでもないことになるわよ。地震による被害以外にね」

「怖いこというなよ。きみまでが」

「その准教授の話だと、5年以内の発生確率、90パーセントなんでしょ」

「そういう話は昔から何度も聞かされたし。正直、またかという感じだった。課長補佐もきっとそう思ってる」

「でも……」

 優美子は言いかけた言葉を呑み込んだ。そして、コーヒーカップを見つめている。

「どうしたんだ」

「なんでもない。食事に行きましょ。今夜はあなたの帰国祝いなのよ」

 優美子はレシートを取って立ち上がった。