宮台 コミュニティは生き物。つねに動き揺らいでいないと死んでしまう。それだけにオープンネスは重要だね。ただし、相手を選ばないとコミュニティの質が下がりかねない。

シンペー たしかにそうですね。よるヒルズでは住人自身がコンテンツ。今のところ、ツイッターやフェイスブック上の口コミで広がっているので、来てくれる人の間では、価値観のコンセンサスが取れているのでは、と思いますが。

 よく驚かれるんですけど、今のところ来訪者は基本的に「無料で泊まれる」()が、よるヒルズのルールなんです。だから、帰ると知らない人が寝ていることもよくあります。そんなこんなで、2011年6月のオープン以来、訪れた人の数はのべ2000人くらいはいってますね。まあ、数値指標に大きな意味はないと思っていますが。

※住人の都合がつくことが条件。

宮台 経済的にはどうやりくりしているの?

シンペー フリーランスのコピーライターをしていまして、自分の生活費はその仕事で稼ぎます。ほかにもいろんな仕事やプロジェクトをやっているのですが、基本的に事業投資に回していますね。よるヒルズでもイベントで上がったお金は、泊まり客用の布団を買い足したり、とかに充てています……。

宮台 冒頭に述べたように、日本人は自分たちのホームベース(本拠地)となりうる、地域や家族といったコミュニティを失ってしまった。ホームベースとは、いつでも帰って来られる場所であると同時に、冒険や挑戦に向けて出発できる場所。そして、自己犠牲的に貢献しようと思える共同体でもある。経済ゲームには、こうした場所が不可欠なんだ。「それがあるから頑張れる」と思える、動機付けの源泉になるからね。ホームベースがなければ誰も本気で戦えない。だから勝てない。

 つまり、今後の日本には経済的展望が見出しにくいといえる。我々は何かとてつもなく間違った道を歩いてきてしまったんだ。そのことに、日本人はもっと自覚的でなければならない。

シンペー 僕らにとってのよるヒルズは、まさに「ホームベース」ですね。そしてそのホームベースは、いろんなコミュニティと交わり、どんどんネットワークを広げています。

宮台 自分のホームベースを持ち、そこを核にネットワークを拡大していく。他国民を見るとよくわかるんだけど、これがじつはグローバル社会において、大変な強みになるんだ。

 たとえば、ユダヤ人は母系、中国人は父系だけど、彼らの強力な血縁ネットワークって世界中に広がっているんだよね。だいたい15歳くらいになると「医者として成功したければアメリカの誰それのところに行け」「音楽家になるならウィーンの誰それを訪ねるといい」といった具合に、みんながネットワークをシェアして夢の実現を応援してくれるから、国際社会に人的リソースを持って参加できる。なおかつ、困ったら戻ってくる場所も用意されている。だからビビらずに出撃できるわけだ。

 こういう共同体のネットワークがないと、グローバル化でますます過酷になる経済ゲームを戦い続けることはできないんだ。他にホームベースになりうるものがあるとすれば宗教だろうね。一神教の信仰者なら、神との関係で築かれた自己の内面が拠り所になる。形はなんでもいいんだが、日本の場合はオウム以降その可能性はなくなった。

 となれば残された希望はシェアハウスにあるのでは――と期待するわけだよ。