賃貸住宅の空室率が年々高まるなか、ここ10年で大きく伸びていた「シェアハウス」。この市場に大手不動産会社の日本土地建物が、東京都世田谷区に87部屋の大型シェアハウスを建設し、12月にも入居者の募集を始めることが業界で話題となっている。
シェアハウスとは共同賃貸住宅の一種で、大きめの一戸建ての居室部分を入居者がそれぞれ占有し、居間や台所、風呂など水周りは居住者全員で共有するのが典型的なタイプである。まかないや管理人のいない寮や合宿所といったイメージだ。
欧米で普及している「ルームシェア」が条件の合った人同士で普通のアパートの1室を借りるのに対し、日本のシェアハウスは最初から共同生活を前提にオーナーが建物を改装しているのが特徴だ。
シェアハウスの普及が始まったのは2000年代初頭から。その後の賃貸アパート経営ブームに乗って、個人や中小不動産会社による参入が相次いで供給量が増加した。目新しさや交流、賑わいを求める若年層を中心に入居者も続々に集まった。
シェアハウス情報の大手ポータルサイト「ひつじ不動産」の調査では、首都圏のシェアハウス件数は2000年に31件、695部屋だったのが、2007年には429件6897部屋にまで急拡大している。
投資家の視点で見た場合、金融商品などに比べて管理は面倒だが「通常のアパート1棟を貸すより(収益性が)約2割高く、物件によっては5~8割くらい高い」(長嶋修・さくら事務所代表)のが魅力だ。シェアハウスでは、住民同士の交流が行われることが多いが、これが付加価値となり同じ地域のワンルームより家賃が高くとれるのだ。実際、家賃30万円だった東京渋谷区の一戸建てが、シェアハウスに改築したことで月額50万円の賃料収入を得られているケースなどがあるという。
08年の金融危機を契機に他の投資用不動産同様にシェアハウスの増加も一時沈静化してしまうが、これは経済状況もさることながら、「高利回りだからと安直に参入した業者や個人が質の悪い物件を供給する例も散見された。これでは好奇心旺盛な一部の人しか住まないので、需要を食い尽くしていた」(長嶋代表)という面もあった。
ところが、ここへ来てブーム再燃の兆候が出てきた。
ブーム再燃の背景には、「震災の影響で、大勢で暮らしたいと考える人、コミュニティや交流を重視する人々が増えてきた」(日本土地建物)ことがある。
加えて、「新しい付加価値をつけた魅力的な物件を供給すれば、シェアハウスに住んでみたいと思う人は掘り起こせる」(長嶋代表)ため、業者も工夫を凝らした良質な物件供給を開始した。実際、冒頭の日本土地建物のシェアハウスには図書スペースや100㎡のウッドデッキのテラスを設けるなど、住民同士の交流を図る「仕掛け」が満載だ。
大手業者から見ても、中古物件や築年数の古いマンションの活用法としてシェアハウスは魅力的に映る。日本土地建物の物件は2棟から成るが、うち1棟は築18年の中古マンションを改築したものだ。マンション専業大手の大京も中古物件の活用にシェアハウスが活かせるのではないかと、参入に向けて社内で研究を始めている。
新しい需要が生まれ、大手が参入することで質の競争も生まれる。シェアハウスが「好奇心旺盛な一部の人」のものから脱し、一段と普及する可能性が高そうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木 豪)