単なるシェアでは絆は生まれない。
コストを払う。その覚悟が必要
シンペー 帰る場所がないと戦えない……。まさにそうですね。僕を含め、よるヒルズの住人は全員、地方出身者なんです。だから、帰る場所(コミュニティ)が東京にあったらいいな、とどこかで思っていた。でも、東京には既存のコミュニティは残っていないですよね。
宮台 そうだね、なくなってしまったね。今後、東京で可能性を見いだせるものがあるとしたら、カオスの存在だね。「東京とNYを除くと先進国の都市は完全に冷え切っていて創作意欲が湧かない」と昔からアーティストたちは言っている。NYのような混沌とした「メルティング・ポット」に対して東京の場合は無秩序な「アジア的カオス」がある。これがヨーロッパだと何もかも秩序化されていってしまう。芸術をはじめ、いろいろなものを生み出す自由なカオスの存在が、1つのポイントになるかもしれないね。
カオスに対する人びとの免疫力も重要だ。人と人との濃密なつながりとは、便利で快適で秩序ある環境から生まれるんじゃない。自由な交流や刺激に満ちたカオスで育まれるわけだから。カオス状態に耐えられない人は、コミュニティなんて持てないよ。
シンペーくんたちのよるヒルズはまさしくカオスだと思うけれど。
シンペー まあ、たしかに秩序ある環境とは言えませんね(笑)。普段はみんな個室に閉じこもっていて、たまにリビングに出てくるときはちゃんと化粧する、というシェアハウスとは違うから。見ず知らずの人まで泊めているわけですし。
だけど、そういうカオス状態から絆が生まれる、というのは実感できます。いつだったか、急きょ大阪に出向いたとき、その晩泊るホテルがなくて途方に暮れたことがあったんです。「誰か泊めて」ってツイートしたら、よるヒルズに泊まったことのある人たちから、次々に温かい返事が返ってきたんです。「じゃあ家においでよ」と。あれは、めちゃくちゃうれしかった。
宮台 そうだね。つねづね言っていることだけれど、絆を結ぶためにはちゃんと絆コストを払うことが必要なんだ。絆コストとは何かといえば、「雨降って地固まる」の「雨降って」の部分。男女関係を考えればわかりやすいけれど、トラブルもなしに2人の仲が深まっていく、なんてことはありえないよね。トラブルが起こるたびに乗り越えていくことで、だんだん「コイツなくして自分の存在も世界もないんだ」という関係性、必然性が生まれてくる。
ところが、日本人は雨を嫌がるあまり、地を固められなかった。いつの頃からか、トラブルを恐れ、お互いの領域に踏み込もうとしなくなったんだ。単に「好き」とか、「一緒にいて楽しい」だけじゃ、絆を作るのは無理だよな。本来は、雨、つまり非常時こそ濃密な関係性を築くチャンスなんだけど。
シンペー そうですよね。「プロジェクトがヤバイ」とか「大きな失敗をした!もう生きている意味ないんじゃ……」とか、本気で弱っているときに前向きに励まされると、すごく太い絆が生まれる気がします。