エレベーターを降りると人気のない廊下が続いている。

 やはり両側から挟まれるようにして、いちばん奥の部屋まで歩いた。

 部屋の中にいたのは、ハドソン国務長官とロバートだった。

「驚かないのか」

 ロバートが両腕を広げて森嶋のほうに近寄ってくる。

「驚いてるよ。しかし感心するやり方ではなかったな。日本じゃなじまない。言えば黙って来ていた」

「手荒なことはしなかっただろ」

 ロバートの言葉に森嶋はドアの前に立っている黒服に視線を向けた。

「あんたら、何かしたのか」

 ロバートが黒服たちを睨みつけた。

 森嶋を殴った黒服が肩をすくめた。

「謝るよ。基本的に野蛮な奴らなんだ。しかし、お前を護るためなんだ。日本のキャリア官僚とアメリカの国務大臣がさしで会ったことが公になれば、日本政府は大騒ぎだろ。マスコミは勝手なことを書き立てる。俺はお前の将来を護りたいんだ」

「礼を言えと言うのか。そんな気にはなれないね。あの男たちは役所を出たときから俺を付けていたのか」

「ただ、ちょっと話を聞いてもらいたいだけだ」

 森嶋は国務長官に目を移した。

「手荒なことをして申し訳なかった」

 国務長官は座ったままではあるが頭を下げた。

「バーボンを置いてないとは、やはり安ホテルだぜ」

 部屋のホームバーでウイスキーをグラスに入れながらロバートが言った。

「水割りでよかったな」

 グラスを私の前のテーブルに置いた。