グーグル、マッキンゼー、リクルート、楽天など12回の転職を重ね、「AI以後」「人生100年時代」の働き方を先駆けて実践する尾原和啓氏が、その圧倒的な経験の全てを込めた新刊、『どこでも誰とでも働ける』。この連載では同書の一部を公開します。

尾原氏は、NTTドコモで「iモード」の開発チームにも所属していました。今回は、その当時に学んだビジネスで非常に重要な考え方を紹介します。

NTTドコモで得られた、ブランドについての大きな学び

 NTTドコモで「iモード」の開発チームの一員だったときの大きな学びは、ブランドについてです。当時は「バンドエイド戦略」と呼んでいましたが、室長の松永真理さんの指示で、iモードが該当する「ジャンルの言葉」をつくらないように、細心の注意を払っていました。

「ジャンルの言葉」をつくらないとは、「バンドエイド」に対する「絆創膏」という言葉をつくらないということです。

「バンドエイド」はジョンソン&ジョンソンの登録商標であり、「絆創膏」というジャンルの一商品です。しかし多くの人はドラッグストアで、「絆創膏」ではなく「バンドエイドをください」と言ってしまう。そうすると、お店の人はほぼ確実に、他社の絆創膏ではなくジョンソン&ジョンソンのバンドエイドを出してきます。バンドエイドが「絆創膏」というジャンルの代表になっているわけです。

 iモードでもそれを目指したのです。そして、この作戦は見事に当たりました。

 iモードの成功を受けて、KDDIが「EZweb」、J-フォン(現ソフトバンク)が「J-Sky」という携帯電話のネットサービスを始めましたが、どちらも言葉としては定着しませんでした。長い間、「iモード」は「iモード」であって、「モバイルインターネット」といったジャンルの言葉で括られなかったのです。

 そうすると、携帯ショップに来たお客様は「iモードください」と言ってしまいます。ショップの店員が「お客様のもっている携帯電話はauですからEZwebですね。iモードはドコモです」と説明しても、「じゃあ、iモードにします」とお客様のほうから乗り換えてくれるわけです。

 これを個人のキャリアに置き換えると、「A社の◯◯さん」でも「営業の◯◯さん」でも「T大出身の◯◯さん」でもなく、ただの「◯◯さん」のほうが圧倒的に強いということです。「A社の」「営業の」「T大出身の」というのはジャンルの言葉です。ジャンルの言葉がついている時点で、他の人たちと比べられているのです。

 ぼくの場合、「元マッキンゼーの尾原さん」「元リクルートの尾原さん」「元グーグルの尾原さん」「元楽天の尾原さん」と呼ばれることはほとんどなくて、たいてい、ただの「尾原さん」です。ぼくがいるとどんなことが起きるか、だいたいみんなわかっているので、いちいち説明しなくてもいいし、たとえば新規事業を立ち上げるときにぼくが必要だと思ったら、声をかけていただけるわけです。

 リクルートの「ゼクシィ」も、ジャンルの言葉を上回るブランド力を誇ります。ゼクシィはかつて、グーグル検索数で「結婚」という言葉を上回ったこともあるのです。それくらい強力なブランドです。

 結婚するには、結婚式の日取りや結婚式場、披露宴の料理、ドレス、引き出物、二次会の幹事、予算、誰を呼んで誰を呼ばないかなど、決めることがたくさんあります。ところが、「結婚」でググっても、次に何を決めればいいかわかりません。そこで「ゼクシィ」で検索すると、結婚にまつわるすべてを教えてくれます。しかも、自分に合った幸せな結婚式まで提案してくれるのです。

 いまでも「ゼクシィ」は、結婚を検討しているカップルの96%が選択する雑誌です。つまり、「結婚」といえば「ゼクシィ」を思い浮かべる人が9割以上いるということです。こうした状態を「純粋想起」と言います。

「何々」と言ったら「◯◯さん」という純粋想起を取ることができれば、鬼に金棒です。似たようなシーンがあれば、すぐに思い出してもらえるからです。「この手の問題は尾原に聞け」という純粋想起ができていれば、こちらからアプローチしなくても、お客様から自動的にご指名がかかるのです。

 純粋想起の最強の形は、検索のことを「ググる」と言うように、動詞になることです。リクルートの「とらばーゆ」という雑誌からは、女性が転職することを意味する「とらばーゆする」という動詞が生まれました。

 個人で動詞になった例としては、ジャーナリストの津田大介(@tsuda)さんの「tsudaる」が有名です。ツイッターが流行り始めた頃に、津田さんがツイートによるカンファレンスのリアルタイム実況中継をしていて、そこから名前が付きました。当時は「ツイッター」と言えば「tsudaる」、「tsudaる」と言えば「津田大介」という純粋想起ができていました。その結果、彼は「ツイッターの第一人者」として、いろいろなメディアに呼ばれるようになったのです。