この仕事の特徴は、しょっちゅう外をほっつき歩いていることである。中国、インド、ガーナ。スーツケース、ときにはバックパックに衣類と日用品、そしてやたらめったら重たい一眼レフや交換レンズ、ラップトップやビデオカメラを突っ込んで、ありとあらゆる場所に出かけて行く。
一般的な旅との大きな違いは、現場に身を置き、みずからの五感を利用して感じたことや疑問の種をかきあつめ、それらが何を意味するのか、相対化していく作業にある。
出会う人は、教えを乞うと驚くほど豊かで、そしてパーソナルな物語を語ってくれる。美味しい食べ物を出されれば、なぜその食材が豊富なのかを考え、スラム街の井戸水で煮たピーナッツも、後で腹を壊すと分かっていながら覚悟を決めて口にする。自分というフィルターを通し、その瞬間を自分の記憶と持ち込んだ機材で切り取りながら、それらが人々の生活や価値観にもたらしたものに思いを馳せる。
今回、アイスランドが私のフィールド(現場)となったのは、この日本と一見何の関係もなさそうな国に、共通する課題を見出していたからだ。それは人々が制御できない、外的要因によってもたらされた「断絶」からの復興である。
世界金融危機という社会の断絶と
エスノグラフィーを通じて見えてきたもの
2008年10月。この小さくて美しい国の名が、世界のメディアで取り上げられたのは、金融危機によって経済的破綻を迎えた時であった。
金融立国を目指し、銀行部門の資産が国の経済規模の実に10倍にも達していたアイスランドは、リーマン・ショックの影響を大きく受けた。この時アイスランドのテレビにゲイル・ホルデ首相(当時)が出演し、国民に「非常事態」を宣言した。アイスランドの銀行は2000年に民営化が完了したばかりだったが、これを機に再び国有化された。世界各国から資金援助を断られたアイスランドは、IMF(国際通貨基金)の支援を受けるに至った。