一方で、今回アイスランドに行って驚いたことは何か?
それは、みな誰もが強く前向きなことだ。
まだ問題は山積しており、これから事態は悪化するかもしれないとみる人もいる。しかし、彼ら自身より前の世代が経験した困難と比較し、「アイスランドは恵まれている」「まだ何も失ってはいない」と立ち向かおうとしている人が何と多いことか。職を失い、家を失い、借金を抱えて倒産している人に至るまで、すべからくだ。そして、金融危機を一部の人間の問題と片付けることなく、制度を疑い、首相を降板させ、議会への抗議運動し、行動を変化させている。
彼らは度重なる「断絶」にもめげず、いかにして再生を果たしてきたのか。なぜかくもしなやかに自らを変化させ、短期的な未来のその先を見据えることができるのか。その結果、アイスランドではどういった変化が起きているのか。この連載を通し、現場で感じて来たことを伝えていきたい。
もう一つの断絶〜東日本大震災で
アイスランドの教訓が活きるワケ
ここで、アイスランドを訪れる8ヵ月前、2011年4月に時計の針を戻そう。
東日本大震災から数週間を経て、私は同僚・有志数名と震災の地へ赴いた。見渡す限りの、がれきの山。なぎ倒された倉庫の壁。何キロにも渡って続く住居の跡と電線のない空。その場に自分の身を置いた瞬間、どこかで夢想していた「なんとかなるのではないか」という淡い期待は粉々に打ち砕かれた。
観光に大きな打撃を受け、自分たちの生活もままならないなか、被災地へ赴く専門家スタッフを収容した松島町(宮城)。多くの人が津波で行方不明となりながらも、メディアに取り上げられず、そのために復興支援やボランティアの数に大きな影響が出た東松島(同)。必ずしも絵になる風景ばかりではないが、日常を破壊され、どうやってこの先生きて行くのか不安を抱えながらも、自分たちの町をどう再生して行くのかを模索し、立ち上がって行く人々と出会った。