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スマートフォンの理想と現実

絶妙のタイミングだったシャープ・鴻海の提携
両社の視線の先にあるものは「AppleTV」か?

クロサカタツヤ [株式会社 企/株式会社TNC 代表]
【第22回】 2012年3月29日
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 しかしよくよく考えてみれば、いわゆる「一か八か」の営業をトップマネジメントが行うはずもなく、むしろ何らかのディールが成立したということ、なのかもしれない。だとするとその有力候補として考えられるのは、AppleTVであろう。特に馴染みのある鴻海グループとの提携を前提にした交渉が成立しているとなれば、話は早いはずだ。

 北米市場は、もともと「ケーブルテレビをセットトップボックスで」というスタイルがテレビ視聴の一般的なスタイルであること、またNetflixのようなオンラインDVDレンタルが普及していることから、スマートテレビとの親和性は高く、市場の顕在化は間近である。もちろんすべては仮説に仮説を重ねた話に過ぎないが、ただプレイヤーとタイミングと動機という「状況証拠」が揃ったことは、事実である。

最終消費者との接点を
どう形成するか

 以上をまとめると、シャープの立場からすれば、苦境を打破する合理的な判断が下され、またある程度の納得感のある提携関係が締結されたように、現時点では思われる。その意味で、いわゆる「日本のものづくり」が生き残る上での、1つの方策が示されたとも言えるだろう。

 もちろん、文中でも書いた通り、最終製品(とブランド)が弱含むのだとしたら、それによって失うものも少なくはない。やはり市場で最終顧客と直に接触するからこそ得られる機微というのは、製品開発やリテールへの影響力はもちろん、調達や戦略転換を進める上でも重要な要素だ。しかし現実問題としてそうも言っていられないのだとしたら、それは背に腹の話である。

 その意味で、今回の提携で最も悩ましいのは、鴻海グループとて電子機器の「受託生産者」であり、最終市場を触る事業者ではない、ということだ。シャープは今後、世界の市場で最終消費者とどのように接点を形成していくのか、改めて整理する必要に迫られるだろう。

 今回の提携は、同じような逆境にいる日本のメーカーにとって、格好の検討材料となるはずだ。そして気がつけば、グローバルにプレゼンスを有していながら、同じく今後のポジショニングに悩みはじめている最終商品のメーカーも、海外には存在する。

 そうしたところと手を組むというのも、1つの方策となるかもしれない。そしてそれによって市場のスケールメリットを得られるのだとしたら、必ずしもプラットフォームがAndroidである必要はないかもしれない――実は今回の提携のさらに先には、そうした気配も見え隠れしているが、この話はまた改めて。

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クロサカタツヤ
[株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学特任准教授]

1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修了後、三菱総合研究所にて情報通信分野のコンサルティングや国内外の政策調査等に従事。その後2007年に独立し、現在は株式会社企(くわだて)代表として、通信・メディア産業の経営戦略立案や資本政策のアドバイザー業務を行う。16年より慶應大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。


スマートフォンの理想と現実

2011年はスマートフォンの普及が本格化する年になる…。業界関係者の誰しもがそう予感していた矢先に発生した東日本大震災は、社会におけるケータイの位置づけを大きく変えた。しかし、スマートフォンの生産に影響が及びつつも、通信事業者各社はその普及を引き続き目指し、消費者もまたそれに呼応している。震災を受けて日本社会自体が変わらなければならない時に、スマホを含むケータイはどんな役割を果たしうるのか。ユーザー意識、端末開発、インフラ動向、ビジネスモデル等、様々な観点からその可能性と課題に迫る。

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