人事部長の井上に、まみこの夫から突然電話が入った。まみこはメンタル不調を理由に休職しており、あと1ヵ月ちょっとで期間満了の半年が経過する。R社の就業規則では、休職期間が満了しても復職できない場合は自然退職(*下記、休職制度参照)となっており、井上も彼女の状況をそろそろ確認しようと思っていたところだった。

 「奥様の具合はいかがですか?復職はできそうでしょうか?」と井上部長は尋ねる。
 「実は直属の上司である宮本課長からセクハラを受けていて、このままだと復帰はできそうにないと妻は言っています」
 「宮本がセクハラですか……?」と井上部長は信じられない様子で聞き返す。
 「はい、妻から初めて聞かされたのですが、セクハラが原因でメンタル不調になったのだと思います」
 (セクハラが原因でメンタル不調なのか……)と井上部長は反芻した。
 「御社としてどのように責任をとっていただけるのか、また、宮本課長の処分も検討していただきたいと思っています」と夫は冷静ではあるが、怒りを含んだ調子で淡々と話した。

 そして夫は井上部長に「直接詳細を話したい」と言うので、3日後に会う約束をして電話を切った。

*休職制度は会社によって様々である。休職期間については、勤続年数に応じて上限を定めている会社も多い。また、休職の延長制度や休職から一度復職し、その後再び休職する場合の期間通算の制度なども会社によって異なる。復職については、一般的に業務に支障がない状態になったら、認められる。休職期間の満了までに復職できる状態に回復していなければ、「自然退職」と定めている就業規則が多い。

出張時の出来事を突かれ、
課長は一部認める

 3日後、まみこの夫が井上部長を訪ねて来た。夫は非常に几帳面な感じで、表情を一切崩さずに、名古屋へ出張した時の妻の話を切り出した。

 「妻が宮本課長と一緒に名古屋へ出張した時でした。現地でレンタカーを借りて、取引先を回っている際に、車内で非常に不快な会話があったそうです」
 「不快な会話…ですか?」
 「はい、口に出すのも恥ずかしいですが、『女性の下着は白がいい』とか、『君は何色の下着をつけているのか?』『ご主人との夫婦生活は月に何日くらいあるのか?』など、話してきたそうです」
 「他には……?」
 「さらに、妻は『車中でウエストのあたりを触られた』と言っていました。これは明らかなセクハラ行為ですから、宮本課長の処分と妻の休職延長をお願いしたいと思います」

 井上部長は、初めて聞く話で非常に驚くとともに、「まず社内調査をするので少し待ってほしい」と夫に伝えた。