「結論の先延ばし」「毎回の延長」「ズレる論点」「本音不在の議論」……どうして、日本の会議は変わらないのか? モルガン・スタンレー、グーグルなどに勤め、現在は独立し日本で二社を経営するピョートル・フェリクス・グジバチ氏は、その答えを新刊『グーグル、モルガン・スタンレーで学んだ 日本人の知らない会議の鉄則』にまとめました。本連載にて抜粋してお届けします。
上司の自己満足で終わる「面談」が多すぎる
日本の会議の一番の欠点は、ゴールが不明確なことにあります。会議のゴールには、原則「決める会議」「伝える会議」「生み出す会議」「つながる会議」の4つしかありません。今回は、「つながる会議(=チームビルディングのための会議)」において一番大事な鉄則をお伝えしましょう。それは「環境をゼロベースで設計すること」です。
「つながる会議」とは、チーム・ビルディング、つまり、よりよい関係を築くための会議のことで、生産性の高い組織ではとても重要視されています。でも、日本の企業にはチーム内に良好な関係を築くことの重要性自体、まだまだ浸透していないようです。
僕がチーム・ビルディングの話をすると、「大丈夫! うちは定期的に面談を設けて、部下から相談してもらっていますから」という反応を頂くことがあります。
でも、その面談は本当に「メンバー」(僕は上下関係を感じさせる「上司」「部下」があまり好きではないので、「マネジャー」「メンバー」という表現を使います)のためになっているでしょうか? よくあるのが、単なるマネジャーの自己満足に終わっている面談(ちなみにグーグルでは、マネジャーとメンバーのフォローアップ・コーチング的な面談のことを「1on1ミーティング」と呼んでいます)。マネジャーが腕組みをして「何か言いたいことはあるかな」とメンバーの話を聞き、いつしかアドバイスとして自分の過去の体験談を語りだし、最終的には自慢話にすり替わっている……メンバーはげんなり、元気になったのはマネジャーだけなんてことも珍しくありません。
「つながる会議」で出したいアウトプットは、メンバーとの間に心理的安全性を築くことです。であれば、そこから逆算したら、どのような形がベストでしょうか? 僕なら、場所、時間帯、雰囲気などの「環境」をゼロベースで設計することに細心の注意を払います。
たとえば、僕はよく天気のいい日はメンバーを公園に連れ出し、ベンチに座りながら話を聞きます。いい関係性を築くことがゴールなら、必ずしも会議室でやる必要はありません。公園がなければ、オフィス周辺の人通りが多くない道をゆっくり歩きながら話すのもいいでしょう。オフィスビルならテラスに出たり、テラスがなければ近所のカフェでも、なんだっていいのです。外に連れ出して一緒に歩くこと自体が「あなたをひとりの人として大切に思っています」というメッセージにもなります。
「普段言いづらいこと」は普段の場所では聞き出せない
複数名のメンバーがいる場合でも同じです。
たとえば、以前僕のアシスタントの誕生日が近づいたとき、ほかのメンバーにも内緒で「今週の会議はちょっと大事な発表があるから場所を変えよう。セルリアンタワー(渋谷にある高層ビル)のラウンジに集合ね」とだけ伝えて、呼び出したことがありました。
そして僕と彼女、他のスタッフたちと4人で集まったところで、「実は、今日は特にアジェンダを用意していません。今日は誕生日会です!」と、みんなでアフタヌーンティーを楽しみました。
もちろん、僕にはアジェンダはなくとも、ゴールがありました。彼女と他のスタッフが仲良くなることで、困ったときに互いに助け合ってもらえるようになってほしい。それに、僕自身も、彼女がどんな人で何を考えているかを深く理解することで、もっと仕事がしやすい環境を用意したかった。これも、あくまで、チーム・ビルディングの一環です。
ケーキを食べ、みんながすっかりリラックスした後、「せっかくなので、最近あったよかったこと、困っていることを一つずつ、みんなでシェアしましょう」と切り出してみました。そうすると、ひとつどころかどんどん意見があがってきました。普段の業務でいいづらいことだって、そのような環境でならお互いに腹を割って話すこともできるでしょう。
会議室で「みなさん、最近、何か困っていることはありませんか?」と呼びかけても、なかなか言い出せないこともあります。「高層タワーのラウンジで、美味しいケーキと紅茶を楽しむ」という非日常的な雰囲気を演出することで、スタッフから本音を引き出すことができたのです。
もちろん、毎週外に出てチーム・ビルディングをする必要はありません。時間がとれないときは、コンビニでお菓子を買ってきてみんなで会議中につまむなど、チーム・ビルディングの要素をふだんのルーティーンに組み込んでみるのでもいいでしょう。「ランチ・ミーティング」と称して昼ごはんを定期的に食べるのでもかまいません。何より大切なのは、チーム・ビルディングを会議の「ゴール」として認識すること、そして、そのために形に縛られずにメンバーにベストな環境を用意することです。