「結論の先延ばし」「毎回の延長」「ズレる論点」「本音不在の議論」……どうして、日本の会議は変わらないのか? モルガン・スタンレー、グーグルなどに勤め、現在は独立し日本で二社を経営するピョートル・フェリクス・グジバチ氏は、その答えを新刊『グーグル、モルガン・スタンレーで学んだ 日本人の知らない会議の鉄則』にまとめました。本連載にて抜粋してお届けします。
ブレストは、実現性の低いアイデアが量産されやすいリスキーな手法
日本の会議の一番の欠点は、ゴールが不明確なことにあります。会議のゴールには、原則「決める会議」「伝える会議」「生み出す会議」「つながる会議」の4つしかありません。今回は、「生み出す会議」において一番大事な鉄則をお伝えしましょう。それは「ブレストにこそ、しっかり準備すること」です。
会議がなければ生まれていなかったであろう新しいアイデアを、メンバーの集合知により生み出す。会議の中でもっとも不確実性が高く、マネジメントが難しいのがこの「生み出す会議」です。
だからこそ、「じゃあ一度ブレスト(ブレイン・ストーミング)でもしてみますか」と、考えなしにセッティングしてはいけません。「制約なく、思いつくままにやるからこそいいアイデアが生まれる」と考えられがちなブレストこそ、実は「準備」が重要なのです。
ブレストは自由度が高いがゆえに、実現性の低いアイデアばかり生まれやすいという、ある意味リスクの高い方法です。みなさんも、なんとなくブレストをしてみたけど、結果的に生まれたのはたくさんのポストイットと、「何かをやった」という満足感だけだった……という経験は、企業で働いていれば一度や二度はあるでしょう。
ぶっつけ本番ではじめるブレストと、準備をしたうえでのブレストは、出てくるアイデアの質と実現可能性が圧倒的に違います。
自由度が高いブレストこそ、「根拠」が重要となる
僕がコンサルティングしている、ある企業を例に挙げましょう。農業用機械・部品の製造販売を行っている地方の老舗企業では、市場縮小傾向もあり、新しいビジネスを開拓する必要性を感じていました。そこで、今後どういう戦略をとるのかを考えるため、会社の強みをあらためて洗い出すことにしたのです。
僕が役員会議でブレストを行うにあたり、参加者に事前準備してもらったのは、「自分が誇りを感じた仕事」について。切り抜きでもお客様からのメールでもなんでもかまわないので、具体的な材料を持ってきてもらいました。すると、「社長がインタビューされた記事の切り抜き」「お客様からお褒めの言葉をもらった手紙」「自分の記事が載った社内報」など、様々なものが寄せられました。それらをホワイトボードに貼り出して、俯瞰して見てみると、「こういう客層のお客様からは、とくに技術面において、高い支持を頂いている」「市場の変化を鋭く察して、他社に先んじてビジネスモデルを新しくつくりあげてきた」など、事実に基づいた振り返りができました。
もしこれが何の準備もなく行われたブレストだったら、「我が社はものづくりへのこだわりについてはどこにも負けない」「地場で培ってきた信頼がある」など、正しいかどうかをその場で判断しようがない、希望的観測に基づいた「曖昧でありふれた意見」ばかり出てきたかもしれません。
「思考の枠組みを外す」というブレストの良さは残しつつも、会社の現状はどうか、これまで築き上げてきた資産は何か……など、あくまで「事実ベース」でアイデアを考えることで、実現可能性をしっかり確保する。ブレストにはそうした準備が欠かせないのです。
本当に優れたブレストは、その場で「プロトタイプ」をつくる
もう一つ、ブレストで大切なこと。それは、言いっぱなしで終わらず、その場でラフなアウトプットまで生み出してしまうことです。
そのためにご紹介したいのが「プロトタイピング」。何が大切で、どんなことが目的なのか、みんなで話し合いながら、その場その場で形作っていく方法です。
僕の会社「モティファイ」のプロジェクトを例に挙げましょう。共同創業者のドリーはUI/UXデザイナーで、「新しい働き方」に基づいた人事ソフトウェアを開発しています。そこで、「ブルーワーカー向けの人材育成アプリ」を開発するにあたり、「どんな機能を盛り込むか」についてブレストを行いました。
会議には実際に工場で働いている人たちに参加してもらって、彼らの実感に近い「キャリアジャーニーマップ」を作成することにしました。採用される前、入社1ヵ月目、1年目、2年目、3年目……と、時間軸を書き出し、その当時の気持ちや悩みごと、実際の行動を付せんに書いて貼り出してもらったのです。そしてみんなでそのマップを見ながら、「この時にこういう言葉をかけてもらいたかった」「こういうことが知りたかった」などと意見を言ってもらい、それを集約しました。そして、ドリーがPCの画面を共有し全員に見せながら、「このイベントとこのイベントなら、どちらが重要ですか?」「このタイミングでもっと知りたいことはなんですか?」などと質問して、アプリのプロトタイプをその場で形作っていったのです。意見を集約するだけでなく、一つひとつその場で目に見える形にすれば、イメージがすれ違うこともなく、改善スピードもはるかに上がります。
これは、何も「デザイナーがいないとできない」方法ではありません。あらかじめ目指したい方向性を確認しあいながら、ホワイトボードにイラストや図案を描き出して「いま言ったのって、こういうイメージで合ってる?」「この案はこの要素があったらもっとよくなるんじゃない?」などと質問を繰り返しながら、メンバーの集合知を活用してアイデアをその場でどんどん形にしていきます。アイデアだけ生み出して、詳細は次回の会議で検討するなんてスピード感では、とてもこの時代についていけません。
準備にはじまり、アウトプットに終わる。この前後のプロセスを一度で終わらせるのが、本当に優れたブレストなのです。