(3)亭主のオーラ
女性客をキャッチするレシピの力

豪徳寺「あめこや」――若いアンテナが、夢の蕎麦屋を創った
女将の裕子さんは、厨房のアシストとフロアの二役をこなす。飾らない彼女のファンも多い。

 「あめこや」の若い夫婦には、だれかれと無く世話を焼きたくなり、また客が逆に世話を焼かれて喜ぶようなところがあります。それが、この店に客が吸い寄せられる秘密のようです。
昔の床屋や銭湯が地元のパブリックスペースになっていたことを僕は思い出していました。

 「お客がふっと腰を掛けに来てくれるような店になるまで2年かかりました」

 亭主と女将が口を揃えていいます。

 「あめこや」の営業時間は夕方の5時から11時です。開店当初は普通にお昼も営業していたのですが、最終的にはいまのスタイルにしました。
蕎麦だけで慌しく1日が終わる店から、“女性一人でも酒が楽しめる店”へと方向を修正したのです。

豪徳寺「あめこや」――若いアンテナが、夢の蕎麦屋を創った
(写真左)炙りは種物をいくつか用意、農家から直接仕入れる山芋の味噌漬けは特に人気があります。(写真右)竹の子に山芋をすり流し、生青海苔をブレンドしてありました。「あめこや」らしい逸品です。

 特に亭主はこれまでの経験から料理の持ち味を強く出したい、と開店以来考え続けてきました。

 「食事にきた、外食にきた、そこにたまたま美味しい蕎麦があった」
その上田さんの言葉に、なるほど「あめこや」らしい、と僕は相槌を打ちました。

 「あめこや」は女性客が7割近いかもしれません。

 家族連れが憩っています。年配の夫婦が寄り添っています。著名人がさりげなく来店できる雰囲気があります。

豪徳寺「あめこや」――若いアンテナが、夢の蕎麦屋を創った
揚げだし豆腐には、空豆のソースの色合いが美しい。アクセントの海老も食欲をそそる。

 「スーパーには置いてない食材で家では作れない料理、しかも季節を感じる」

 上田さんのこの考え方が主婦たちを招きます。少し無理すれば手が届く食材で、少し手間をかければ美味しいものができる、と参考にしてみたいレシピなのです。

 少し背伸びしたところに、客の“マインドの原点”があります。ビジネスの基本を蕎麦屋の亭主から教えてもらいました。