スムーズに法制化を進めたいが、
当事者でも把握しづらい状況

 2つの法案は、いわゆる議員立法であり、立法府に所属する議員の発議により成立を目指すものです。議員立法は、原則としては全会一致での成立が望ましいものと言われています。

 スムーズに法制化を進めるには、超党派で作る議員連盟で、法案に関して各党の考えを突き合わせて、いずれの党も賛成できるように検討していくことが必要です。

 2015年3月に「LGBTに関する課題を考える議員連盟」という超党派議連が立ち上がっています。しかし、この議連はあくまで勉強会的なものであり、法案に関して検討することを目的としていません。

 そのため、「LGBT差別解消法案」と「理解増進法案」という相容れない性格の法案が、野党と与党で別に動き出してしまったのです。この混沌とした状況ゆえに、本来、法案を必要とするはずの当事者の中でも、状況をきちんと把握しづらくなってしまいました。

LGBT差別解消法案、
理解増進法案、それぞれの現状

 2016年5月に国会に提出された「LGBT差別解消法案」ですが、審議されることがないまま、現在は廃案になっています。

 法案が提出された2年前とは野党の状況が大きく変わっているため(衆議院では民進党が立憲民主党、希望の党、無所属の会に分かれ、のちに国民民主党ができるなど一部合併再編が進んでいるため)、今後どのような動きになっていくかは、現時点では明らかになっていません。
 
 しかし、立憲民主党で当選した当事者でもある尾辻かな子議員(大阪府第2区)は、今年2018年に入ってから新聞のインタビューで「LGBT差別解消法案を実現したい」と語っています。また2018年5月6日の「東京レインボープライド2018」であいさつした立憲民主党の枝野幸男代表は「しっかりと差別解消法を今準備していますし、同性パートナーシップを認める法律の研究も進めています」と語っているので、立憲民主党として、または他の野党と協力して再度法案を取りまとめようという動きが出てくるかもしれません。

 理解増進法案は、自民党の特命委員会ではまとまったものの、いまだ国会に提出するには至っていません。同じ保守と言っても党内には様々な考え方の議員がいるわけですから、より多くの議員の理解を得て法案を提出するまでは、まだもう少し時間を要する可能性が高いです。

 また、どの法案を実現していくのかという、党としての優先順位もあるでしょう。いま、国会では働き方改革法案を進めることが一番であり、憲法改正の発議を優先したいという考えもあると思われます。