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グローバル競争を勝ち抜く組織人材戦略

ノウハウはあっても伝える相手がいない
日本産業の課題をどうやって克服するか

大西 俊介
【第5回】 2018年6月1日
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失われていくモノづくりの力
とるべき対策は?

 日本の製造業は系列という名の完成品メーカーと部品メーカーのシンジケートにより構成されてきましたが、この縦系列のバリューチェーンを機能させてきたのがエンジニアリング会社です。エンジニアリング会社はモノづくりの設計(工場のラインや工程の設計)を行い、これを実行する経験豊かなエンジニアをメーカーに提供してきました。大手は新事業の立ち上げを行ってきましたが下支えしてきた多くのエンジニアリング企業は大変な人材難に面しています。「匠(たくみ)の技」と言えば聞こえがいいのですが、特定の人材に依存した技術集団であり、根本のところの技術継承は人から人へ、だったのです。高齢化が進み、若手の人材も少なくなる中で技術継承は不可能になりつつあります。日本の「モノづくりの力」が失われつつあるのです。

 前段で述べた、女性や高齢者の労働力の活用や生産性向上の取り組みは、この驚異的な労働人口の減少に対して、有意ではあるけれども十分な対策とは言えません。さらなる対策として考えらえられることは企業のバリューチェーン全体における日本の労働力に依存する割合を減らしていくことです。グローバルな視点でワークフォース(労働人口)を活用することを視野に入れ、バリューチェーンを再編成することです。それには、「ファブレス」と「ESO」という2つの方法があります。

 ファブレスとはメーカーが自社で工場を持たず、コア事業に特化するビジネスモデルですが、どちらかというとユニクロやH&M、ZARAなどのいわゆるSPA(製造小売りが他アパレル)になじみがあります。製造設備の初期投資を抑えられ、急速な市場の変化に対応可能となります。

 一方のESO (Engineering Service Outsourcing)は、製造業におけるEMS(製造請負会社)の活用を抜本的に進めた考え方です。ESOベンダーは商品企画のディスカッションのファシリテートから参画します。その上で設計や試作品の製作(試作品を製造する第三者を活用する場合は、そのマネジメントも含めて)量産への展開(工場引継)はESOベンダーが行います。量産以降はEMSベンダーが行います。そして、今現在人材難に瀕しているところが、この製品製造設計のところであり、その全体コーディネートまで行うという考え方であるわけですから、この流れができれば多くの課題を解決することができるようになります。

 ESOが全体のバリューチェーンとして機能するための課題として、情報漏洩リスクや品質維持の難しさがあります。とはいえこれにより、労働人口減少の課題を他の対策とともに大きく解決の方向に進めることができることは間違いないと思います。逆に国内のワークフォースだけの処方箋では国際競争に勝ち残っていくことはできないでしょう。

 

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大西 俊介
[インフォシスリミテッド 日本代表]

おおにし・しゅんすけ/1986年、一橋大学経済学部卒業後、同年日本電信電話株式会社に入社、株式会社NTTデータ、外資系コンサルティング会社等を経て、2013年6月より、株式会社NTTデータ グローバルソリューションズの代表取締役に就任。通信・ITサービス、製造業界を中心に、海外ビジネス再編、クロスボーダーな経営統合、経営レベルのグローバルプログラムの解決等、グローバル企業や日本企業の経営戦略や多文化・多言語の環境下での経営課題解決について、数多くのコンサルティング・プロジェクトを手掛ける。NTTデータグループの日本におけるSAP事業のコアカンパニーの代表として、事業拡大に貢献した。SAP2017年1月1日、インフォシスリミテッド日本代表に就任。著書に「グローバル競争を勝ち抜くプラットフォーム戦略」(幻冬舎)等がある。

グローバル競争を勝ち抜く組織人材戦略

グローバル化とその揺り戻しともいえる保護主義が錯綜する世界のビジネス環境。そこで生き残る企業の条件を、外資系IT企業日本代表の立場で論考する。

「グローバル競争を勝ち抜く組織人材戦略」

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