「高い技術」で勝っているからこそ、
「他の要素」で負けている

 現代ビジネスとイノベーションの話題に戻りましょう。

 日本企業が特定製品分野において「高い技術力」を誇る場合、米軍であれば、その「高い技術」という同じ指標を真似る形で日本企業を追いかけることはしないでしょう。

 恐らく消費者が購入を決める「別の新たな指標」を導入することで、圧倒的な勝利を目指すはずです。

 かつてカラフルなスケルトン・デザインで登場したiMacは、パソコンの販売競争の指標に、性能ではなく「デザイン」を導入した初めてのパソコンとなりました。

 携帯音楽プレーヤーとして強固な地位を築いたiPodは、日本のメーカーが得意とした音質の良さではなく、ダウンロードストアであるiTunesと組み合わせた新しいビジネスモデルで、圧倒的な優位性をつくり出したのです。

 大東亜戦争の末期まで、日本は零戦への防弾装備を何度も否定します。最前線の日本人パイロットからは幾度も要望があったにも関わらずです。上層部は、軽量であることで高い旋回性能を発揮することが、零戦の勝利の要因だと思い込み続けていたからです。これは先に紹介したように、組織として追いかける問題の解決策自体が間違っていたことを意味しています。

 ところが、これまで説明してきたように、米軍とその戦闘機は「零戦の旋回性が高くても」、その強みを問題としない新しい強み(指標)を導入することで圧勝することを狙い、実現していきます。

 同じように、どれほど日本企業の製品技術が高くとも、海外メーカーはその強みを優越する形で新しい指標(iMacのスタイリッシュなデザイン、音楽ダウンロードの容易さ等)を導入することで圧勝している現状があるのではないでしょうか。

高い技術力も「市場での強み」に
転換できなければ無意味

 この議論は、単純に「高い技術力」を否定しているわけではありません。重要な点は、市場の競争に勝つ要素を追いかけることが必要であって、高い技術を誇りながらも販売競争で敗北を続けるのは、旋回性能という一つの要素で勝っていても、撃墜され続ける零戦と同じだということを理解していただきたいのです。

 実は大東亜戦争末期にも、達人級の零戦パイロットたちの間では、米軍の最新鋭戦闘機に対して「一撃離脱」「低速での旋回性能」など、零戦の特性を極限まで活かす形で勝ち抜いた人物が存在しています。ちょうど高度な技術力をさらに磨くことで、これからも成功し続ける日本企業が存在するであろうことに似ています。

 しかし、これは大多数の日本企業が通り抜けることができる道ではないと感じます。米軍が「高速」「重武装」「複数攻撃」という新しい指標を持ち込んだ時点で、平均以上の日本軍パイロットは加速度的に撃ち落されていったのですから。

 米軍は日本軍の戦闘の中に、強さを生み出す要素を発見したら、それを凌駕する新しい要素を戦場に持ち込み圧倒しました。日本企業と日本人が、この新しい時代にイノベーションを使いこなして勝ち抜くためには、ビジネスという空中戦で使える「新しい指標」を見つけなければいけないのです。

◆第1回◆
なぜ、今『失敗の本質』なのか?これから読むための7つのヒント

◆第2回◆
大東亜戦争の敗因から学ぶ、現代にも通じる6つのターニングポイント

◆第4回◆
4/17日公開予定


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