入社当時、私は一部長にすぎませんでした。会社のトップではありません。上には十数人ほどいました。しかし社長や人事部長に働きかけて、組織改革を行いました。戦略を実行するには、会社の組織を変えなくてはいけない。さらに一人ひとりのモチベーションを上げるために、評価システムも変えなくてはいけない。みんながのんびり好きなことをやっていては、この会社はつぶれてしまうと説得しました。当時のUSJは縦割り構造で、横のつながりがなかった。各部門長と社長だけがつながっていて、集団としての力を生かせていない。そう説明すると社長も人事も納得してくれて、組織改革に乗り出してくれました。

 これは完成形が見えていないとできないことです。どう変えていけばいいのかがわからないからです。目的を達成するための戦略を考える人間がいないとできないのです。実はこの「戦略人事」ができる人事部というのは日本にはほとんどありません。だからなかなか日本の会社は変われないのです。多くの会社の人事担当者は、内部でキャリアを積んできているので組織改革をした経験がない。経験が積みにくい構造なのです。

 最初の2年で組織構造と評価システムの改革がほぼ完成したので、後はスムーズに戦略を実行することができました。一部長でも会社全体を変えられるのです。組織が変わっていなければ、USJはあそこまで成功していないし、私が抜けたらすぐに元に戻ってしまったでしょう。私が抜けた後も好調を維持していることこそが、組織改革が成功した証です。

 多くの人は、組織改革とは経営トップや人事部がやることで、自分には関係のないことだと思いがちです。しかし、組織構築スキルのある人とない人では、出世に決定的な差が出ます。たくさんの経営者にお会いしてきましたが、経営者になる方は必ずこの組織構築スキルを持っているのです。

人間の本質である「自己保存」を逆手にとって組織を変える

──組織構築スキルを簡単に言うとどういうことでしょうか?

森岡 それぞれの人が持っている能力の長所、短所を上手く組み合わせて、強い組織を作る力です。「名選手、名監督にあらず」と言います。リーダーは名選手である必要はないのです。一人でできることはたかが知れています。多くの人に正しいことをやらせることのできるリーダーの方が圧倒的に強いのです。