『ブルー・オーシャン・シフト』の付録で、日本企業ケースを執筆したムーギー・キムが、同社代表取締役の前田裕二氏にその戦略を聞く対談の後編。前編ではSHOWROOMのビジネスと成長のカギとなる「共感マーケット」の概要について触れた。後編ではその「共感」を深く掘り下げ、応援したくなる人やビジネスの共通項について、ムーギー・キムが前田氏に迫る(構成:加藤年男)。
売れるものには、それを語る場が必ずある
1987年東京都生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、UBS証券株式会社に入社。2011年、UBS Securities LLCに移りニューヨーク勤務を経た後、2013年に株式会社ディー・エヌ・エー入社。
“夢を叶える”ライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM(ショールーム)」を立ち上げる。2015年に当該事業をスピンオフ、SHOWROOM株式会社を設立。ソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受け、合弁会社化。
現在は、SHOWROOM株式会社・代表取締役社長として、SHOWROOM事業を率いる。 2017年6月には初の著書『人生の勝算』を出版、Amazonベストセラー1位を獲得。
ムーギー:SHOWROOMでは、視聴者が「誰」であるか、バーチャル上でアイデンティティを可視化しています。それによって、ファン同士がお互いを認識できる仕組みになっていると伺いました。視聴者同士で話すこともあると。
前田:ええ、ルーム内で普通に話せますし、ほとんどの人はツイッターのアカウントを紐づけていますから、この人面白いなと思ったら、ツイッターなど外部のSNSを通じてコミュニケーションが取れます。
ムーギー:そこは重要なポイントですね。いま売れているメディアは横のつながりをつくってコミュニティを持っていることが共通項になっています。つながりたいマーケットです。
前田:そうだと思います。インタラクションの方向性には二つあって、配信者とユーザーのほか、配信者のファンであるユーザー同士のつながりも大切なんです。ユーザー同士が自分の好きな配信者について熱く語り合える場所があると、コンテンツは活性化すると思っています。
ムーギー:たしかにそうですね。
前田:売れているものには、必ずそれを「語る場」があるんです。そもそもテレビもマンガも、「学校」、「教室」がなかったらヒットは生まれなかったと思っています。個人が分断されて、好きなものを語る場所がなくなれば、ヒットは生まれづらくなります。横のつながりをつくることがいまの時代、メディアに求められているんです。コミュニティの存在はユーザーがその場から離れにくくなる効果ももたらすので、ユーザーのLTV(ライフタイムバリュー)を引き上げます。
ムーギー:御社では横のつながりを増やすためにどんな工夫をされていますか。
前田:いくつかありますが、1つには、偶発的な絆の形成を促すために、ユーザーの回遊性を高めている、ということがあります。このユーザーの回遊性の高さがSHOWROOMの大きな強みの1つです。1人当たり1日に見るルームの数は平均で10以上。中には、50以上のルームを毎日見る猛者もいます。一度コミュニティができたとしても、当然、いつかはそこに飽きが来る。そこで、新しく別の縁や絆が生じる工夫をしています。
ルームの回遊がもたらすものとしては、(1)別の配信者との掛け合わせ、(2)別のコミュニティ(に属する他のユーザー)との掛け合わせ、の二種類があります。つまり、SHOWROOM特有の回遊性の高さが、コミュニティの縦横無尽な自然増幅作用に繋がっているのです。これが、サービスの成長にもつながりました。回遊性を高める上で大きな効果があったのが、無料アイテムの星の存在です。
ムーギー:それがどう効くんでしょうか。
前田:配信者に投げる星は1個1円分の価値を持っているので、投げればもちろん配信者に喜んでもらえます。その星は一つのルームで30秒配信を見ると、ボーナスとしてもらえるようにしているんです。だから、この子を応援したいと思ったら、みんな他のルームを回遊して星をかき集めてこようとします。
ムーギー:なるほど、好きな子に投げる星欲しさに他のルームに行く。
前田:はい。でも、他のルームで30秒見ていたら、その配信者にも愛着が湧いてきて、だんだん応援する対象となる演者が増えてくるんですね。
ムーギー:配信者はいま何人くらいいるんですか。
前田:20万人程度です。アマチュアというカテゴリーがあって、そこでは誰でも配信することができます。10代、20代の女性が6割から7割を占めていますが、濃いユーザーは面白ければ性別や年齢はあまり気にしません。
僕もときどき配信するんですけど、僕には男性かつ年齢層高めのファンの方が多くて、そうした方々も熱心に毎回僕の弾き語り配信を見てくださいます。
ムーギー:ちなみにどんな歌を?
前田:基本的にカバー曲を歌うことが多いです。視聴者の年齢層的にも、昭和歌謡などの古めの歌がメインになることが多いです。この前は昔、路上の弾き語りでよくやっていた吉幾三をひたすら歌っていました。吉幾三をフルコーラス歌える若者がいるんだと感動してもらえました(笑)