「応援される人」の三つの条件

SHOWROOM前田裕二が語る、「応援したくなる人」の三つの条件ムーギー・キム
ブルー・オーシャン・シフト研究所日本支部 代表
慶応義塾大学総合政策学部卒業。INSEADにてMBA(経営学修士)取得。外資系コンサルティングファーム、投資銀行、米系資産運用会社、香港でのプライベートエクイティファンド投資、日本でのバイアウトファンド勤務を経て、シンガポールにてINSEAD 起業家支援企業に参画。
INSEAD時代に師事したチャン・キム氏に任じられ、世界中に拠点を有するブルー・オーシャン・シフト研究所の日本支部の代表として、新刊『ブルー・オーシャン・シフト』では、付録の日本ケースの執筆を担当している。著書に『一流の育て方』(ダイヤモンド社)『最強の働き方』(東洋経済 新報社)、『最強の健康法』(SBクリエイティブ)などがある。

ムーギー:そもそも、御社のビジネスはご自身の弾き語りが原点なんですよね。

前田:そうです。幼い頃に親を亡くした僕は、生活のために小学生の頃から路上で弾き語りをやっていました。当時は、通りがかった人のうち1人でもいいから1万円置いてくれる人をつかまえるぞと思って歌っていました。

ムーギー:その頃からターゲットの絞り込みをして、共感を勝ち取ろうとしていた。前田さんから見て、共感を受ける人、応援を受ける人の成功要素にはどのようなものがあるのでしょうか。

前田:三つあると思っています。一つはモチベーションが本物であることです。事務所からやれと言われたからとか、何となくやってみたというのはすぐにバレてしまいます。モチベーションの背景は、伝えたいことがある、有名になりたい、モテたいでも何でもいいんですが、その源泉となるやる気の絶対量が大事です。なぜかというと、インターネットサービスにおいて最重要であるファクターに「更新頻度」があり、頻度は熱量・やる気がもたらすからです。SHOWROOMも、原則は毎日配信しなければ人気は出ません。

ムーギー:人気のある人は毎日やっているんだ。その間、ずっと歌ったりしゃべったりしているわけですね。

前田:そうです。毎日やるのは本当に大変です。その大変さを支えるものがやる気なんです。だから、モデルとか雑誌で名を知られた人でも、やる気がないとこちらの世界では人気になりにくい。

ムーギー:動画ではやる気は全部伝わってしまうでしょうね。

前田:その通りです。なので、本物のモチベーションを持っていないといけない。

ムーギー:なるほど、分かりやすい。では、二つ目はなんですか?

前田:二つ目は、自分を客観視してセルフプロデュースできることです。能ではそこで使う客観カメラのことを「離見」と言うのですが、自分の目ではなく、冷静な観客側の目線に立った時に、一体自分がどんなキャラに見えているのか、そのキャラがこんな発言をしたらどうなるのか。そういったことを考えて行動することが大切です。
 例えば、お姫様キャラとして自分を売り込んでいるAKB48のあるメンバーは、配信を始めると自分の部屋にあるクマのぬいぐるみとかを全部後ろ向きに置くんです。「何で」と聞かれたら、「だって、クマを置いておくと、みんなクマがかわいいって言って、私を見てくれないんだもん」って(笑)。これができるのは自分がお姫様キャラであることがわかっているからでしょう。

ムーギー:そうした戦略的なキャラづくりが大事なんですね。

前田:はい。同じくAKB48の子で「朝5時半の女」がいます。1年以上毎朝配信して、いつも朝から1万人近くの人たちが視聴しているんです。朝5時半からなんてもう狂気の沙汰ですよね。彼女は、トップメンバーが配信する夜の時間帯で頑張っても、なかなかすぐには頭角を現せないことに気づいたのでしょう。つまり、私のような若手がこんな人気・先輩メンバーに囲まれて配信しても埋もれてしまう、と。それならば、ライバルの少ない早朝から配信すればきっと目立てる。こう考えて毎朝早起きして配信していたら、いつの間にやらファンから朝5時半の女と呼ばれて評判が立つようになったんです。これって戦略的でしょ。

ムーギー:ターゲットを変える、誰もやっていないところを狙う、競争がない市場に飛び出すのは、まさにブルー・オーシャン的ですね。

前田:三つ目は、実はこれが1番重要だと思っているんですが、ストーリーです。なぜかというと、ストーリーは拡散性を持つからです。僕のストーリーの定義は、「ついほかの人にしゃべりたくなること」です。

ムーギー:誰かに話したくなる話ってありますからね。

前田:ネット世代がつい話したくなる裏話というのは、ツイッターやフェイスブックで共有したくなるということなので、拡散性を持っていて、ファンが増える確率が上がるんです。
 実は朝5時半の女がそうで、彼女のお父さんは2年前に亡くなりました。生前、お父さんからは「AKBなんかやって」といつも言われていたのに、形見のスマホを見たら、カメラロールの中には彼女が載った雑誌やテレビの画像が山のようにあった。それを見た彼女は、本当は応援してくれていたことを知って号泣して、お父さんのために私はこの世界で絶対に1番になるんだと、煮えたぎるモチベーションを持っているんです。

ムーギー:それはフィクションじゃなくて……。

前田:本当の話だそうです。これって、ついほかの人に言いたくなるでしょ。「朝5時半の女」と言われているあの子、なぜあんなに頑張ってるか知ってる?って。
 SHOWROOMだってそうかもしれません。動画アプリで1位になったSHOWROOM社長の前田ってチャラそうに見えるけど実は苦労人なんだよ、と(笑)。

ムーギー:前田さんの苦労話は戦略的プロデュースなんですか?(笑)

前田:いえいえ、僕の話も全部本当です。そういったストーリーを持てている自分は、ラッキーだなと思います。重要なことは、自分や自社について誰かが語る時に、「知ってた?SHOWROOMのサービスは社長が子どものときに路上で弾き語りをしていたことを原型にしているんだって」とつい言ってしまうかどうか。そこが大事なポイントなんです。

ムーギー:私なんかはまったく応援されませんけど、応援ビジネスをリードする経営者は、やはり応援されるようなストーリーを持つ人でなければいけませんよね。

前田:はい。そのためにも、サービスをつくった人の「顔が見えている」事が重要です。誰がどんな想いでつくっているかが可視化されると、企業のストーリーや理念がまっすぐ偽りなくエンドユーザーに伝わります。それが、これからの企業の競争力になると思っています。

ムーギー:仰る通りで、サービスの内容や商品の質で差がつかなくなった時代では、創業者のストーリー性だけでブランドプレミアムがどんと跳ね上がったりします。

前田:やる気がある、自己客観視してセルフプロデュースできる、ストーリーがあることは、経営においてもまったく同じことが言えるはずです。いい会社をつくる、いい事業戦略をつくることとファンをつくることは同義だと思っています。