SHOWROOMは2015年にサービスを開始したライブ配信のプラットフォームである。アプリの累計ダウンロード数は320万ダウンロードを突破、会員登録者数は約160万人にのぼる。2017年上半期の日本国内動画配信アプリの収益性ランキングでは、1位を獲得した。動画配信サービスはYouTube、ニコニコ動画など各種あるが、SHOWROOMは既存サービスとどのように異なる市場を開拓したのか。『ブルー・オーシャン・シフト』の付録で、日本企業ケースを執筆したムーギー・キムが、同社代表取締役の前田裕二氏にその成長戦略を聞く(構成:加藤年男)。

ワンチャン課金を「取り除く」

SHOWROOM前田裕二が語る、「共感マーケット」という新市場前田裕二
1987年東京都生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、UBS証券株式会社に入社。2011年、UBS Securities LLCに移りニューヨーク勤務を経た後、2013年に株式会社ディー・エヌ・エー入社。
“夢を叶える”ライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM(ショールーム)」を立ち上げる。2015年に当該事業をスピンオフ、SHOWROOM株式会社を設立。ソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受け、合弁会社化。
現在は、SHOWROOM株式会社・代表取締役社長として、SHOWROOM事業を率いる。 2017年6月には初の著書『人生の勝算』を出版、Amazonベストセラー1位を獲得。

ムーギー:御社のビジネスは、「SHOWROOM」というライブ配信サービスですよね。

前田:そうです。仮想ライブ空間の中で、無料で誰でも配信と視聴ができるライブ配信プラットフォームです。夢を叶えたい人とそれを応援したい人が集まって、新しいエンターテインメントの形を生み出しています。

ムーギー:ライブ配信のプラットフォームといえば、日本のみならず、中国でもYYなどのサービスがありますよね。ファンが配信者に、コメントを送ったり、ギフティング(バーチャルなアイテムをプレゼントすること)したり…。それらと似ているように思うのですが、基本的に同じようなサービスだと理解してよいですか。

前田:そうですね、広義に捉えれば、ライブ配信者に対して、ユーザーが課金するので同じです。けれど、「なぜ課金をするのか」というユーザー心理や洞察はまったく違っていて、それがSHOWROOMと他のサービスとの、最大の差別化要因になっています。
 僕は配信者に対する課金には2種類あると思っていて。一つはすごくカジュアルな言葉でいうと「ワンチャン課金」です。

ムーギー:ワンチャン?

前田:ワンチャンとは、ワンチャンスを略したとても日本的な俗語です。「もしかすると可能性があるかも」という文脈で使われることが多いんです。
中華系の配信サービスは、「この子とデートできるかも」という期待を抱いて、視聴者がある種出会い目的で課金をすることが多いと言われています。中国で高いシェアを占めるYYやMomoなどのライブ配信サービスについても、やはりその要素は大きい。もともとMomoは日本で言う出会い系のアプリで、そこからビボットしてライブ配信に移ってきています。
 そういった背景もあり、どうしても課金すると配信者と付き合えるとか、WeChat(日本でいうLINEのようなサービス)のアドレスを教えてもらえるか…というデーティングの要素が強くなっていくんです。それを日本人の感覚でわかりやすく言ったのが「ワンチャン課金」です。

ムーギー:下心つきの課金ですね(笑)。

前田:一方で、SHOWROOMで行われている課金は、それとは別の心理に根ざしたもので、我々は「共感課金」と呼んでいます。SHOWROOMはあくまで「夢を叶えるプラットフォーム」であり、ワンチャン課金が極めて起きにくい設計になっています。

SHOWROOM前田裕二が語る、「共感マーケット」という新市場SHOWROOMでの動画配信イメージ(提供:SHOWROOM)
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ムーギー:ブルー・オーシャン戦略では、同業他社と比べて、何を「取り除くか」が重要になります。御社は他のサービスで当たり前の「ワンチャン課金」を取り除いているんですね。

前田:そう言えると思います。その代わりが「共感課金」です。例えば、HKT48の指原莉乃さんをご存じですか。

ムーギー:知っています、AKB48の総選挙で3年連続1位になった方ですよね。

前田:握手会や現場に行くとわかりますが、指原さんには同年代より比較的、50代、60代のお父さん世代が多い。

ムーギー:娘を応援しているような感覚なんですかね。

前田:そうなのかもしれません。彼女は共感を誘引する力がものすごく強いんです。彼女がコンプレックスをバネにして、努力をしてきた。そのような彼女の成長ストーリーに、ファンがどんどん感情移入していったんです。彼女の夢に貢献することで、ファンも幸せを感じることができるという、とても利他的な共感型消費なんです。

ムーギー:彼女の幸せが私の幸せになるということですね。

前田:そうですね。SHOWROOMで課金をして、目に見える品物などの対価が返ってくるわけではない。それでは、なんのために消費をするのか。それは、「配信者を応援したい」などといった、誰かの幸せに自分が貢献したいという気持ちからなんです。

ムーギー:この「共感型課金」のキーワードは、「応援」ですね。これって日本独自のような気がするんです。高校野球のように地元を挙げての応援団がいたり、同じCDを10枚買ったりするマーケットなんて、他の国にはありません。なぜ日本にはこんな市場があるのでしょうか。

前田:自分自身が主人公になるより、一歩退くことを美徳とする文化が日本人の根底に流れているからかもしれません。
 承認欲求の満たし方には、自分が出て行って直接的に承認を受ける方法と、他者を充足することで他者からの感謝や社会からの評価を受けて満たす方法の二つがあります。結果はどちらも、利己的な欲求を満たすという点で同じですが、たぶん後者がより日本的なのだろうと思います。

ムーギー:日本人はコミュニティで感謝されて承認されたいという欲求が強いということですね。そのあたりが根底でつながっている。