芸能界のブルー・オーシャンはどこにあるか
ムーギー:芸能界でブルー・オーシャンを意識されたことはありますか。
前田:はい、あります。その方向性で思考を深めるには、芸能市場自体の変化を、「タレント4象限」で考えるとわかりやすいと思います。この4象限のうち、どこが空いてるかを考えれば良いわけです。二軸の説明を申し上げると、縦軸はファンと演者の距離感を表す軸。上は偶像で下は身近です。そして横軸は、演者に紐づくファンの数を表す軸。この図でいうと、いままでの芸能界には下のAとBの象限はなくて、ファンが少なくてもDの象限で、偶像性を保たねばならなかった。このDのエリアには、Twitterなどできないタレントも未だに存在するのです。そこからオーディションで勝ち上がって、ファンが増えてC象限に行き、そして偶像になる、というのが芸能界の基本原則でした。
拡大画像表示
ムーギー:そうですね。
前田:この伝統的な手法が芸能界におけるデファクトスタンダードである中、変革を起こしたのが、AKB48でした。偶像的で遠い存在だったアイドルを、身近で会いに行けるアイドルと再定義して、B象限に下ろしてきました。ファンとの距離感、例えば、密度濃い双方向やりとりとファン数の伸びには一定の相関があるのですが、秋元さんはどこかで、この原則に沿って動いていたのだと思います。B象限は、一見すると、マスではなく幅も狭いのでニッチかつ弱そうに見えるわけですが、実は1つ1つのコミュニティがすごく濃くて、その濃さをビジネスに転換していく仕組みさえ生み出せば、完全なブルー・オーシャンでした。その仕組みが、まさに、SHOWROOMというわけです。
ムーギー:ニッチマーケットをさらに深く掘ったわけですね。
前田:はい。ちなみにAKB48は、普段あまり表には見えてこない「濃さ」や「深度」という抽象概念を、「CDの売上枚数」という具体的に目に見える形にしました。ファンは多くなくても、1人が100枚買うほどに感動してくれたら、100人が買っているのと同じになる。幅は1だけど、深さが100あるので、結果、深さが幅に追いつく。いや、もしかするとそれを超えるかもしれない。この方向性、ミリオンヒットを出して、AKB48はC象限に押し上げられたんです。
テレビは今、このC象限の中で苦しんでいるように見えます。視聴者の数が減り、クライアントもそれ以外のプロモーションチャネルを探し始めるので、このままでは広告予算は別の何かに奪われて、どんどんシュリンクしていくでしょう。では、ここでいなくなった視聴者は一体、どこにいったのか。テレビスクリーンの前からいなくなった人は今、どこにいるのか。答えは誰もが体感しているように、スマホスクリーンの前、です。このような消費者の行動変化が起きているんですが、クライアントはまだ自社商品をマス媒体に載せることにブランド価値を感じているので、広告市場におけるCからBへの大転換は起きていません。ただ、今後は必ず、何らかの形でそれが起きるはずです。
ムーギー:マス広告に代わってカテゴリー広告が伸びていくということ?
前田:はい。SHOWROOMでも、これから配信者のルームに動画広告が打たれたりするでしょう。100万人に対して1回だけ見せる広告と、配信者1万人が100人に対して見せる広告、どちらのほうがモノが売れるか。実際、後者の方が売れるケースが増えていくと思います。
それを僕は「スナック理論」と言っています。文字通り、街のスナックの常連客はマックスでも100人でしょうけど、その100人はママの言うことなら聞いてくれますよね。
ムーギー:「このCD買ってよ」と言われたら、しょうがねぇな、と……(笑)。
前田:そうです。影響力の範囲は100人までで止まってしまうかもしれませんが、その100人には、確実に売れるんです。100万人にリーチしたいなら、これを1万回重ねればいい。つまり幅よりも濃さ、深さのほうがマーケティングにおいて重要だということです。広告関係者やクライアントが本当の意味でそのことに気づき始めたら、SHOWROOMは広告でもブルー・オーシャンになると思います。
ムーギー:ということは、御社の戦略的方向性として、次のビジネスは広告のほうに……。
前田:市場の流れ次第では、トライする可能性もあります。直接的な広告ではないですが、その変形として、例えば、配信者が商品紹介したものをリアルタイムに買えるようにする、ライブコマースの事業はすでにSHOWROOM上で始まりつつあります。
ムーギー:ジャパネット高田のアイドル版ですね。
前田:言い得て妙ですね。構造はそっくりです。
表層的には、広告やコマース、ギフティングと、ビジネスモデルが多岐にわたっているように見えますが、実は根本的にはすべて1つの真理に通じます。すなわちそれは、「配信者とファンの間にある強い絆を、どんな手法で刈り取るか」、ということです。一つは現在既に実施しているギフティングです。ほかにも、その関係性にリーチしたいクライアントのスポンサーフィー。あるいはサロンみたいに、月額いくら払った人にはプレミアムとしてこんなコンテンツをあげるという課金の仕方もあるでしょう。
刈り取り方はたくさんあるんですけど、ポイントはあくまでSHOWROOMが、「ファンと配信者の深い絆を紡ぐ場である」という事。絆をゼロからつくる場を提供することがSHOWROOMの付加価値であり、僕の配信者に対する思いなんです。
表現活動をしたいとか、歌を歌って生きていたいと思っても、継続的に活動を支える支援者がいないと、なかなか夢を叶えることはできません。そういった人々が熱量を意味のある何か(例えばファンの数など)にしっかり転換して、活躍していける仕組みが、SHOWROOMなんです。SHOWROOMを通じて、多くの人生の景色がより色鮮やかなものに変わっていけばと思っていますし、そのためには命も惜しまず勝負するという渾身の気迫で、サービスを日々育んでいます。