貿易摩擦をめぐる米中交渉に転機が訪れた。5月19日にアメリカと中国が発表した、貿易協議の共同声明において、両国間の「貿易戦争」の懸念が後退したと報じられたが、果たしてどうなのか――?『「米中関係」が決める5年後の日本経済』の著者で経済評論家の渡邉哲也氏が解説する。

米中貿易戦争は
終戦したのか?

 貿易摩擦をめぐる米中交渉に転機が訪れた。5月19日にアメリカと中国が発表した、貿易協議の共同声明において、中国は対米貿易赤字削減のため、農産物やエネルギーを大量輸入することで合意。さらに、輸入乗用車の関税を25%から15%に引き下げると発表した。

 一方、アメリカは、中国の通信機器大手である中興通訊(ZTE;本社は深セン)に対して、「北朝鮮やイランへの輸出規制に違反した」という理由でアメリカ企業との取引禁止措置を取っていたが、トランプ大統領が規制緩和に動き出した。

 両国間の「貿易戦争」の懸念後退から、大豆や銅などの先物市場も落ち着きを取り戻した、と報じられている。

 しかし筆者は、3つの理由から、貿易戦争の火種は消えておらず、ZTEへの制裁緩和についてもトランプ大統領の意向通りに進まない、と見ている。

 1つは、「国防権限法」(政府が国防省に対して予算の権限を与える法律)の存在だ。国防権限法にはアメリカ政府機関によるZTE製品の使用や、中国への最新技術の移転を禁止する項目が盛り込まれている。共和党のマック・ソーンベリー下院軍事委員長も「(同項目について)議員らが削除を求めるとは見込んでいない」と主張した。

 毎年、アメリカは同法で軍事的な予算や計画を策定しており、そこには経済制裁も含まれている。同法案の内容を修正するには議会の承認を得なければならず、これは大統領の一存で強行することはできない。上下両院を通過後に大統領が署名しないという手段もあるが、そうなるとすべての軍事的案件がストップしてしまう。そのため、法案の審議過程で同項目を削除するにしても、トランプ大統領が議会の強い反対を押しのけてまで実行するメリットがあるとは思えない。規制強化は確定的といっていいだろう。