高血圧を外科的に治療「腎デナベーション」が実用化目前写真はイメージです

 利尿薬を含め、3種類以上の降圧剤を飲んでいるのに、目標値まで血圧が下がらない人を「治療抵抗性高血圧」という。

 今までは薬を重ね、生活習慣を厳しく管理するしか手だてがなかったが、高血圧を外科的に治療する「腎デナベーション」が実用化目前にある。

 血圧が上昇する仕組みはさまざまだ。なかでも“闘争-逃走”神経の交感神経ネットワークを介した腎臓の影響は大きい。

 何らかの刺激で交感神経系が亢進すると、心拍数が増え、血管が収縮し、血圧が上昇する。その際、腎臓から血管の収縮に働く「レニン」という物質が放出され、血管がきゅっと引き締まり、出血沙汰に対する防御を固める。

 その刺激が腎臓動脈周辺の交感神経の活動を高め、さらにレニンが分泌され、ますます血圧が上昇してしまうのだ。

 このメカニズムは古くから知られ、1950年代には手術で交感神経を切除する方法が試みられてきた。ところが術後の合併症が重く、中断された歴史がある。

 しかし近年、足の付け根から血管内にカテーテルを入れ、遠くの臓器を治療する「カテーテル治療(血管内治療)」が著しく進歩。これを応用して、腎動脈にまつわりついている交感神経を血管内から超音波や高周波で焼灼する「腎デナベーション」が登場した。

 5月に世界五大医学誌「ランセット」で報告された偽手術(腎臓の血管造影)との比較試験によると、術後2カ月時点で、活動時間帯(7~22時)の上の血圧は、偽手術群がマイナス2.2mmHgだったのに対し、腎デナベーション群はマイナス8.5mmHgと有意に低下した。術後の有害な事象は認められなかった。

 150人の被験者(18~75歳)の血圧は、降圧剤をやめてから4週後の術前時点で、135/85~170/105mmHgだった。なんとなく自分の数値と重ねてしまう方もいるだろう。

 日本でも複数の施設で腎デナベーションの臨床試験が行われている。安全性や長期間の有効性についてはまだ検討が必要だが、今後の試験結果に注目したい。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)