ネズミと言っても、ディズニーの人気キャラクターではなく、汚いドブネズミ。映画全体では、わずか20~30秒ぐらいのシーンです。白黒映画なので色が分からないのですが、この仕事はさすがにカルメンにとってショックが大きかったらしく、仕事が終わった後に「あの格好でトラックで降りてさ、子どもはぞろぞろついてくるし、尻尾は引っ張られるし、あんなに恥ずかしいこと滅多にないよ。おまけに走ったら転んじゃったんだよ」とボヤく場面があります。

 これに限らず、カルメンの自由奔放、天真爛漫な演技が面白いのですが、ドブネズミの格好を含めて詳細はDVDでご覧いただくとして、カルメンが愚痴るほど惨めなドブネズミのぬいぐるみとは一体、何を表していたのでしょうか。

 カルメンがドブネズミに扮したのは、ネズミを殺す薬「チュウコロリ」をPRする屋外イベントでした。バックに流れる宣伝のアナウンスに耳を傾けてみましょう。

「皆様、独立日本、最初の大事な選挙戦がいよいよ始まりました。この機会に新しい文化日本を皆様の手で作るために、私たちは一致協力して、この日本の国中から不潔なドブネズミを一掃しようではありませんか」

ドブネズミが文化だけでなく
健康を害する一因にも

 映画が公開された1952年に起きた出来事を補足すると、宣伝の意味が分かります。

 まず、「独立日本、最初の大事な選挙戦」は、政治的な状況を指しています。戦争に敗れた日本は1951年、「サンフランシスコ平和条約」を締結して独立を回復。その翌年には与党、自由党内部の派閥対立が激化する中、首相の吉田茂が「抜き打ち解散」に踏み切って総選挙が実施されており、その世相が反映していると思われます。

 次に「不潔なドブネズミ」の部分です。ドブネズミは今でも夜の繁華街で目にする機会がありますし、近年では渋谷駅の再開発とか、築地市場の移転に際してネズミ駆除が話題になっていましたが、私たちの生活を阻害するほどの脅威とは言えません。

 しかし、当時は文化を阻害するだけでなく、健康を害する一因になっていました。次の記事をご覧ください。