ジョブとしての取締役が浸透するか
小林:ある大手企業の人事ですごく記憶に残った事例があってね。その会社のCFOの方をよく存じ上げていて、彼は当時取締役だったんですが、栄転して、グループ全体の稼ぎ頭のグローバルのヘッドになった。その時に、取締役を退任して執行役になるんですよ。なぜなら、CFOの時はコーポレートの観点から各事業を俯瞰的に見る立場にあったが、事業部門のヘッドになるということは執行の責任者であり、取締役に監督される立場になるから。
村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):もちろん順調に出世されてるんだけど、取締役っていうタイトル自体は取れているから、日本の旧来的な出世スゴロクの感覚だと「あれっ?」て思う人もいるかもしれない。経営と執行の分離を早い段階から意識されている会社ならではの差配だよね。
小林:その会社においては、取締役というのはまさにジョブだからだったんです。監督すべき役割の時は取締役のジョブを付けるし、監督されるほうであれば、取締役からは外れる。この会社は、明確なディシプリン(規律)を持っておられる。
朝倉:取締役って、その意味では役割ですよね。先日、早稲田大学ビジネススクールの川本裕子教授が「取締役会の勉強会みたいなところに来ると、グレイヘアーのおじさんばかりでダイバーシティーがない」という話をされていたんですが、この時、面白いと思ったのが、「若い人がいない」という指摘。「ダイバーシティー」と聞くと、得てして女性や海外の有識者を増やしていこう、という点については認識があるのだけど、若い人間を入れるという発想は確かにあまりなかったなと。
取締役を、キャリアのご褒美だと位置づけると、若い人が選任されるわけがないんですよ。だけど役割と捉えて、ボードメンバーについてダイバーシティーを本気で重視しようとすると、女性や海外の方だけでなく、年齢というのも一つの軸として考えていかなければならないはずなんです。
村上:確かに、取締役の話って、ジェンダーとか国籍ばかりに意識がいくけど、本当は、取締役のジェネレーションも多様性を追求していかないといけないわけですよね。
業界によって、同じ時代背景で働いてきた世代ごとに、どうしても似てくるじゃないですか。50代の人はイケイケの経験で、40代が市場の下り坂の経験で、みたいに。そうすると、ある程度ジェネレーションを分けて取締役を構成しとかないと、この世代ばかりだと上潮強いけど守り弱いなとか、そういう癖が出ますよね。
朝倉:先日、日経新聞を見ていると、「内部留保に課税する云々」という記事がありました。この議論については非常にナンセンスだと思っているのですが、一方で「なるほど」と思ったのは、役員の年代に関する言及です。今の会社役員のボリュームゾーンって全共闘世代のちょっと下くらいで、少し上の年代の学生闘争の経緯もあって、世代的に保守的な傾向があり、だから投資にも及び腰になるのだと。これ、どこまで本当なのかは知りませんし、そんな単純な話でもないと思うのですが、確かに世代によって発想に何かしらの共通点や傾向はあるでしょうね。
小林:世代感というのは自分が普段感じている以上に思考に影響を与えてますよね。
村上:古いと言われている政治家の世界ですら多少の年齢のグラデーションが出てきているのに、企業の取締役はいまだ「全員60歳以上です」だと、発想に偏りが出ますよ。
朝倉:「おじさん」が問題なわけでもないけれど、おじさんばっかりは問題ですよね。
*次回に続きます。
*本記事は、株式公開後も精力的に発展を目指す“ポストIPO・スタートアップ”を応援するシニフィアンのオウンドメディア「Signifiant Style」で2017年12月30日に掲載された内容です。
兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。
村上 誠典 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県姫路市出身。東京大学にて小型衛星開発、衛星の自律制御・軌道工学に関わる。同大学院に進学後、宇宙科学研究所(現JAXA)にて「はやぶさ」「イカロス」等の基礎研究を担当。ゴールドマン・サックスに入社後、同東京・ロンドンの投資銀行部門にて14年間に渡り日欧米・新興国等の多様なステージ・文化の企業に関わる。IT・通信・インターネット・メディアや民生・総合電機を中心に幅広い業界の投資案件、M&A、資金調達業務に従事。
小林 賢治 シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県加古川市出身。東京大学大学院人文社会系研究科美学藝術学にて「西洋音楽における演奏」を研究。在学中にオーケストラを創設し、自らもフルート奏者として活動。卒業後、株式会社コーポレイトディレクションに入社し経営コンサルティングに従事。その後、株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、取締役・執行役員としてソーシャルゲーム事業、海外展開、人事、経営企画・IRなど、事業部門からコーポレートまで幅広い領域を統括する。