スタートアップの社外取はどうあるべきか

朝倉:2015年にコーポレートガバナンス・コードも適用され、大企業における取締役会の理想像というものについては、徐々にコンセンサスが作られつつあるわけじゃないですか。一方で、まだ理想像が見えていないのが、若い非公開のスタートアップにおける取締役会のあり方です。実態は経営会議と同じで、「やらないといけないから、やっているんです」といった形式的なアリバイ作りになっているケースが多々あるんじゃないかと思っています。
だからこそ、スタートアップにおける社外取締役像や取締役会のあり方について、理想像を作っていくということは、個人的に取り組んでいきたいチャレンジですね。
たとえば、僕は現在、ラクスルの社外取締役を務めていますが、2017年にKDDIに買収されるまでは、ロコパートナーズというスタートアップの社外取締役も務めていました。未上場のスタートアップで独立社外取締役を選任しているというのは非常に珍しい例です。 松本社長(ラクスル)や篠塚社長(ロコパートナーズ)が、先を見越して呼んでくれたわけですけれど、スタートアップの社外取締役っていうと、普通は出資しているベンチャーキャピタル(VC)からのお目付け役ですからね。こういった雰囲気の中で、出資者でもない人間が、どう立ち振る舞えばいいのかというのは、結構難しいところがあります。
取締役選任の打診を受けた際に必ず言うのは、「社外取締役というのは社長も創業者も株主も含めた、すべての関係者の利益を代表しなければいけない。『お友達役員』になる気はないし、社長の好まないことであっても言う機会があると思う。毎回、『はい分かりました!』と賛成するわけじゃないぞ」ということです。実際に真っ向から反対することもありますからね。
ただ、単に牽制するだけというのも違うとも思うんです。ああだ、こうだと、揚げ足を取り、批判して終わりじゃ、まったく意味がない。どこかで、グイっと創業者の背中を押すような役割も、同時に担っていくべきなんじゃないかと。
渋谷や六本木にあるようなスタートアップの社外取締役って、求められる役割が大手町にあるような大企業の社外取締役とは異なる部分もある。このあたりは混ぜないで検討する必要があると思うんです。

村上:それ、すごくいい話ですよね。大企業との比較感でいうと、スタートアップってまだ事業の形が安定期に入りきってないからこそ、さっき朝倉さんが言った、ある程度事業をぐっと押す部分、つまり事業を作っていく役割の重要性が高い。
でも、ある程度、事業が成熟期に入ると、逆に守りの部分の重要性が増してくるから、耳の痛い外部からの質問を投げることが、より大事になる。
スタートアップでそれをやりすぎると、せっかくの勢いを止めてしまうリスクもありますからね。つまり、事業の成熟度合いによって、取締役の果たす役割が成長寄りの攻めか、リスクに対する守備寄りなのか微妙に変わりうるのではと思います。

朝倉:0か1かで切り分けるというよりは、グラデーションで判断していくべきことですね。

小林:補足して言うと、コーポレートガバナンス・コードの根幹は、実は、攻めのコーポレートガバナンスなんです。要は、「みんな守りの話ばっかりするけど、どうやって投資するか、どうやって経営陣の背中を押すか、どうやって大きなピボットをするか、っていう話をできるような取締役会にしよう」ということなので、大きな会社も守りに寄りすぎているのをなんとかせにゃならん、というのもあります。
そのうえで、新興企業だと攻めと守りの重み付けを変えないといけないっていうのはそのとおりだと思う。

朝倉:だから、ベッタリでもないけど、突き放した存在でもない。役割としては、ボクシングのセコンドみたいなものでしょうか。