麹町経済研究所のちょっと気の弱いヒラ研究員「末席(ませき)」が、上司や所長に叱咤激励されながらも、経済の現状や経済学について解き明かしていく新連載。第1回は、デフレの正体に迫ります。
「じつは…経済研究所」
麹町経済研究所は、東京・千代田区の麹町に本拠地を置く麹町経営大学院に附属する、経済学研究所である。
麹町経営大学院では、MBAの次世代アップデートを世界に先駆けて行う計画を持っており、MBAの周辺、つまり経済学などの学術領域を取り込んでいくことを目的に、この研究所を設立することを決定。また、将来的には、欧米の独立系シンクタンクのように政策提言までを行うことも目指している。
このような高邁な設立理念を掲げながらも、この経済研究所はおそろしく小所帯だ。所長とマネジャーを除けば、研究員は2名しかいない上に、設備はといえば、リナックスベースのPCが2台支給されているだけで、プリンターなどは他部署との共用である。
というわけで、大規模な独自調査などはなかなか行うことができないのだが、なぜか各種メディア関係者に知名度が高く、重宝がられる存在だ。
それには理由があって、クライアントのコメントやリポートの要請には何でも答える方針をとっているからだ。どんなムチャ振りにも応じるのが、基本姿勢となっている。
麹町経済研究所のこの方針は、ファウンダーである所長が若かりし頃にかなりケインズにかぶれていて、その副作用からきているのではないかと所内で噂されている*1。
「きみ、需要は大事だよ。需要から経済は始まる。需要があるのなら、ぜひそれに応えなければね」
これは、ムチャ振りの際に必ず言う、所長の口癖だ。というわけで、今日もメディア関係者からのコメントやらリポートの需要(という名のムチャ振り注文)が次々に舞い込んできている。
しかも、麹町経済研究所のリポートのタイトルは、所長によって「じつは…」で始めることが義務づけられている。
ムチャ振りに「じつは…」で対応するのは、所長のメディア戦略だ。しかし、それでは難渋することも多く、末端の研究員にとっては、たまったものではないのであるが…。
ただ、その形式のリポートは思いのほか好評で、いつしか麹町経済研究所は、「じつは…経済研究所」と呼ばれ、重宝がられるようになった…。
*1 cf.『雇用・利子および貨幣の一般理論』(ジョン・メイナード・ケインズ/著、1935-1936年)