世界のトップシェアを持つような研ぎ澄まされた技術は、今でも日本の中堅企業に多く見られます。一方、規模が小さいからこそ、人にまつわる課題にはいつも頭を悩まされていることも事実です。イノベーションと成長力の原点である「人材」という経営資源をいかに活用するのか――。『人事こそ最強の経営戦略』の著者であり人事戦略コンサルティングの第一人者・南和気氏が、人事が経営を変えていった企業を紹介していきます。今回はヤマシンフィルタを取り上げます。
時価総額50億円が、たった1年で500億円に
年間の株価上昇率トップを記録
ヤマシンフィルタは、建設機械の油圧回路に用いるフィルターを主に製造している会社です。世界の建設機械の主要メーカーの製品には標準品として導入されており、日本、北米、ドイツを中心とした欧州など世界中で7割というトップシェアを誇ります。
生活の中で日常的に目にする製品ではないので、同社の名前を初めて耳にしたという方も多いかもしれません。
しかし、売上規模はすでに130億円(2018年度)を超え、連結での従業員数は500人強。2014年10月に東証二部に上場し、2016年3月に第1部銘柄指定、そしてこのとき、時価総額50億円だったのですが、1年後にはなんと500億円となりました。東証上場企業が3500社以上あるなかで、年間の株価上昇率でトップに立ったのです。
日本で最も時価総額が高い企業はトヨタ自動車で約24兆円(2018年7月現在)で、売上高は約29兆円です(2017年度)。一方、ヤマシンフィルタの売上高は130億円に対して、時価総額500億円です。
つまり、ヤマシンフィルタは企業規模に対して、はるかに大きな期待と支持を市場から集める、数少ない企業の1つといえます。
ヤマシンフィルタの強さの秘密はどこにあるのか
ヤマシンフィルタは、1956年に創業した約60年の歴史を持つ企業です。その60年の歴史を通じて、同社最大の強みである技術力と製品力を培ってきました。
油圧で使うフィルタは、人間でいえば腎臓の働きをする機能性部品といえます。フィルタが取るゴミは、数マイクロメートルといったごく小さなものですが、ヤマシンフィルタでは素材から自社で開発し、川上から川下まで一気通貫ですべてを自社で製造しています。外注に頼らない技術力によって世界でも類を見ない、独自性の高いポジションを確立しているわけです。
また、この技術力を背景に、ヤマシンフィルタは顧客企業に最適なフィルタを実現できる強さがあります。