行き場を失ったお金がバブルを引き起こす

 その後、飛ぶ鳥を落とす勢いのオランダにも暗雲が立ちこめていきます。17世紀初頭から、世界の産銀量が停滞し始めていたのが悪い兆候でした。銀を採掘しすぎたのです。

 世界の産銀量は、1620年の40万キロから1650年の25万キロへと、30年間で40%弱も減少してしまいました。国際通商の貨幣である銀貨の減少は、海運の低迷につながっていきます。

 これに追い打ちをかけたのが英仏のオランダに対する軍事行動で、これがオランダ海運業の衰退を決定づけました。

 その後、行き場を失ったオランダの資本の一部が、海運への投資から国内への投機に乗りかえられていきます。これが世界初のバブルとして有名な「チューリップバブル」です。

 当時のオランダでは、オスマン帝国で栽培されていたチューリップの球根の改良が盛んに行われており、それが投機の対象となっていきました。球根の価格は騰勢を強めていき、最高級の球根は家一軒分の値段よりも高くなったほどです。

 チューリップの球根は植物愛好家たちでさえ手が出せない価格まで高騰し、そのうち買い手がつかなくなりました。需要と供給のバランスが崩れてしまったのです。

 そして1637年2月3日、突如大暴落が始まると、球根を販売・転売していた人々はパニックに陥り、オランダ政府を巻き込んだ社会問題へと発展していきました。

グローバル化とどう向き合うか?

 翻って21世紀の現在。極端なグローバル化は決して長続きしないということを私たちは体験しました。

 ポスト冷戦の間、アメリカ主導の金融資本主義が行き着くところまで行き着き、リーマンショックを招く形で住宅バブルと証券化バブルが弾けました。その後も、アメリカではグローバル化と技術の進歩などから所得格差が拡大していき、2017年の大統領選ではそうした人々の不満をうまく吸収したトランプ氏が当選します。

 そして、欧州連合(EU)の中で国家主権や通貨発行権を制約され、金融・財政政策を思うように採れず、移民管理も十分に行えないヨーロッパの人々の苛立ちが右派を躍進させました。

 グローバル化を優先するために民主主義を犠牲にしても必ずその反動はやってくる、それが歴史の教訓です。

 しかし一方で、グローバル化は続いていくということもまた歴史の教訓です。快適な暮らしを支えるモノやサービスは、世界の貿易・金融の一体化と情報革命を通じてはじめて可能となるものであり、グローバル化と私たちの生活はもはや切っても切れないものになっています。

 よって、私たちが考えるべきは「グローバル化とどう向き合うか?」という方法論です。

 極端なグローバル化が行き詰まりを見せた現在では、対話こそが唯一の方法です。それぞれの国の事情を踏まえたうえで、じっくり時間をかけて、国民が納得する形でグローバル化を進めるしかないように思えます。

 その際には、17世紀のオランダが粘り強い交渉力を発揮して世界の覇権を握っていったような姿が求められると思います。なぜなら、自由貿易で統一された世界はもはや過去のものとなろうとしているからです。

 良い車をつくり、良いサービスを提供するだけでは繁栄できないということです。相手国の事情も慮りながら、それぞれの国と腰を据えて交渉を重ねていくしかない、傍目には生産性の低い世界の到来です。

 しかし、核兵器が拡散して大国といえども軍事力を発揮できない現状では、お互いの国を尊重し、話し合いで解決していくしかグローバル化の波に乗る方法がないのです。

 現在では製造業からサービス業への産業シフトが起きており、これらサービス業では規模の経済が働きにくいことから雇用を増やしにくくなっています。今後は人工知能(AI)やロボットがさらに進化していくことを考えても、中間層の所得を持続的に押し上げていくのは難しいでしょう。

 人々の所得の伸び悩みが世界に広がるとき、その社会の持続的発展は困難となります。だからこそ、その反動が起きないように、国がいきすぎた効率性の追求やグローバル企業の寡占化を規制していく必要が出てきているといえます。