サラリーマン社長の社長就任は「ゴール」でしかない
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藤野 この図表2を見てみてください。創業者がトップを務めている会社と、創業者以外のいわゆるサラリーマン社長がトップを務める会社の株価推移です。2007年末=100として指数化すると、2018年4月時点で、創業者がトップを務める会社のパフォーマンスの7.1倍に対して、それ以外は3.2倍と、創業者系のパフォーマンスのほうが倍以上よいことがわかります。
また、図表3は同じ時期に社長の株式保有割合と株価推移の関係を表したグラフですが、社長が10%以上保有している場合は7.7倍、同5%以上保有で4.1倍、非保有だと2.5倍です。この表こそ、創業者がもつ執念の大事さを物語っています。
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朝倉 鮮明ですね。
藤野 たとえば有名エレクトロニクスメーカーに就職して、役員になったら年収1億円がもらえる。世間的にはそれで十分「成功者」です。一族郎党からも褒められるでしょう? 社長なんかになったら「大成功者」ですよ。親戚から「きみ、社長になってからが勝負だ。どれだけ業績と株価を上げるかだよ」なんて、言われないはずです。
つまり、大企業で社長になるのはゴールなので、社長になった後にやることは「消化試合」みたいなものです。でも、創業社長は違う。社長になるのは「スタート」であって、ずっと真剣勝負を続けていかなければならない。その差ですよね。
朝倉 サラリーマン社長の「消化試合」というのは、言い得て妙ですね。出世レースで勝ち残った人からしてみると、プレーオフ進出が決まっているので、ケガをしない程度に気をつけて流そう、となる。一方の創業経営者はまさに「Day 1」を迎えてこれからペナントレースが始まる状態なわけですから、真剣度が大きく違いますよね。
藤野 じゃあ次は、創業経営者が亡くなった後、どんな後継者を選べばいいかですよね。東京大学を出た管理系切れ者のナンバー2と、親のコネで語学留学して親のコネで就職したようなボンボンの二代目のどちらがいいと思いますか?
僕は10年ぐらい前までは、前者の頭のいいナンバー2だろうと思って、そういう企業に投資していたんですよ。でも、検証してみると、案外ボンボンが引き継いだほうがうまくいっていることがわかった。なぜかと考えたのですが、創業家だと無意識のうちに目線が長期になっているからではないか、と。家業として長く生き残ることに関心があるし、いまの世の中は長期のビジョンに基づいて足元の判断もしたほうが成果は出やすい。でも、サラリーマンが継いだら、どうしても結果を出そうとして半年や3年で物事を考えてしまう。いくら優秀でも短期で見て考えることって皆似てきますから、競争の激しい収益率の低い事業に突っ込んでいったりするわけです。
朝倉 創業家は、自然とファイナンス思考になっていくわけですね。
藤野 難しいのは、旧来型の大企業です。ファイナンス思考は大事だけれども、自然と備わっている創業者だけでなく、それ以外の人々にいかに広げていけるか、が僕自身の課題でもあります。大企業で働くサラリーマンの方がこの本を読んでファイナンス思考を実践しようと思っても、社長から役員、部長、課長に至るまで周りが全部PL脳だと、そのうちに自分もどっぷり浸かってしまう。だから、大企業にいる若い方でそこに問題意識を感じたら、おそらく選択肢は次の3つじゃないでしょうか。トップの意思決定やインセンティブのあり方を変えるか、そこから飛び出して自分で起業するか、あるいはファイナンス思考の人たちのなかに飛び込むか――。最後のファイナンス思考の人たちに飛び込むとすると、現状ではざっくり言って、外資系か創業系の企業という選択になる。
朝倉 たしかに、「ファイナンス思考」の重要性を広げていくことの難しさはひしひしと感じています。まだ創業まもないスタートアップの方たちのほうが打てば響くところがあり、説明すると目に見えて行動が変わっていく一方、PL脳に浸かった組織を変えるのはそう簡単ではありません。だから、PL脳の組織で問題意識をもっている人は、志を同じくする人たちのところに飛び出していくほうがよりストレスなく力を発揮しやすいのではないかと私も思っているんです。
というのも、PL脳で一番割を食うのは若い人たちですよね。通常、役員人事はローテーションで決まりますから、現任の役員たちは任期中に顕在化しないであろうリスクには手を打ちづらい構造です。でも、若い人たちはそのリスクが顕在化する10~20年後も現役世代で会社にいる可能性が高い。自分たちが割を食って尻拭いまでさせられかねない、と思うのであれば、飛び出してみるべきだと思っています。(次回へつづく)