60年前に絶えた千葉在来の蕎麦が復活した。ただ、1店、「泰庵」だけがそのまぼろしの蕎麦を客膳に出す。海外帰りの客が、空港から直行しても食べたいという蕎麦と料理とは一体どんなものなのか。
「まぼろしのそば」と書かれた幟が立つ
成田空港から海外帰りの客が直行する店
JR千葉駅でモノレールに乗り換えて、3つ目の天台駅で降りる。駅から歩くこと数分で「遊蕎心・泰庵(やすあん)」に着く。
玄関の横に「千葉在来」と書かれた幟旗が風に揺らめいていた。“在来”とは品種改良をしていない純品種という意味で、その地域のみで収穫されてきた蕎麦のことだ。
そこには「まぼろしのそば」となにやら気になる文字が書き込まれていた。
店に入ると、ゆったりとした6人掛けのテーブルがあり、接待や会食客用の造りになっている。カウンターは6席、小上がりには6人席の掘りごたつ式の座卓が2つあり、休日には家族客が楽しく座を囲む。
郊外の蕎麦屋らしく、「泰庵」には4台分の駐車場が用意されているが、その客はほとんどが蕎麦前をやりに来るという。つまり酒を楽しむ客が多いのだ。それはとりもなおさず、料理が美味しいということであり、蕎麦にも特別な趣向があるということだ。
「東京の蕎麦屋に負けないように考えてます。わざわざここまで足を運んで下さるので」と、亭主の持木泰二さんは言う。
その亭主の言葉通り、「泰庵」の客は5キロ圏外からの客がほとんど。近所の割合は1割にも満たないそうだ。しかも、わざわざ千葉は我孫子、館山からの客がおり、東京や横浜からも電車や車で来訪する人たちも多い。あらかじめ代行車を使う用意をしてくる、模範的な訪問客も少なくないという。
「面白いのは海外帰りのお客が多いのです。成田空港から電話を掛けて直接来られます。和食が恋しくなるのでしょうか」(持木さん)
どうして、こんなにも遠来の客を呼ぶようになったのだろうか。