企業としては、相手は金を払ってもらうのではなく、逆に給料を払っている社員なのである。しかも、数ヵ月で出ていくのではなく、この先も自社で力をずっと発揮し続けてもらわないといけない人材だ。

 そこで使えるのが、短所の裏側にある長所を探して、褒めながら改善すべき点を指摘するという方法だ。先ほどのAさんとのやりとりに戻ろう。

ほめると子どもはダメになる本連載の著者・榎本博明さんの
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若者の育て方について悩んでいる
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今の若者が頑張れなかったり傷つきやすかったりするのは、欧米流「褒めて育てる」思想の感化を受けてきたのが要因。臨床心理学データに基づき欧米の真似ごとを一刀両断します!

筆者「おっしゃるように、改善すべき短所を褒めるだけでは改善されないですよね?」
Aさん「はい、褒められたら、それでいいんだって思ってしまいますから」
筆者「そうですよね。だからこそ工夫が必要なんです」
Aさん「どんな工夫ですか?」
筆者「例えば、人の意見を聞かない人の場合ですが、褒められ世代にいきなり注意してもヘソを曲げるというのであれば、その短所の裏側にある長所を持ち出しながら改善を促してみるのです」
Aさん「具体的に、どう言うんですか?」
筆者「『君のこだわりはわかるし、こだわりを持つっていうのは良いことなんだけど、視野を広げるっていうのも大事だよね。もう少し人の話を聞くようにすると、視野が広がって、そのこだわりも生きるようになると思うんだよね』っていう感じで話してみたらどうですか?」
Aさん「なるほど」
筆者「言い方は人によってそれぞれですが…」
Aさん「言い換えって、そういうふうに活かせばいいんですね」

 最後にAさんが言い換えの活かし方についてあれこれ話していたが、勘違いしがちなのは短所を長所とみなしてただ褒めればいいというのではないことである。ひとひねり工夫が必要だ。

 それが上手くいくかどうかのカギは、上司や先輩の皆さんが若手の部下に対し、何でも率直に話せるような関係を築いているかどうかである。上司と部下、先輩と後輩が、必要と思うことは率直に言えるように、日頃から良好な関係を作っていかなければならない。

 6つの影響力の基盤(第9回「ついて行きたくなる上司が持っている『3つの力』」参照)で言えば、上司や先輩には、「準拠勢力」を持てるように心がけてほしい。なぜなら若い部下は、影響力の受け手の側から喜んで指示や注意を受け入れるようになるからである。そうした信頼関係を基礎に、褒めることは褒め、直すべきことは忠告するスタンスで、上司や先輩たちは若手を育成してほしいと思う。

(心理学博士、MP人間科学研究所代表 榎本博明)