プルデンシャル生命2000人中1位の成績をおさめ「伝説のトップ営業」と呼ばれる川田修氏が、あらゆる仕事に通ずる「リピート」と「紹介」を生む法則を解き明かし、発売たちまち重版が決まった話題の新刊『だから、また行きたくなる。』

この記事では、本書のキーメッセージであり、選ばれるサービスの条件「レベル11」を徹底的に実践していた幻の小料理屋の「すごいサービス」3つを特別掲載する。(構成:今野良介)

(1)不安を取り去ってくれた「看板」

東京・白金の住宅街に、民家を改装した小料理屋さんがありました(今はもう閉店しています)。ご夫婦が二人で経営されている、いわゆる隠れ家的なお店でした。

私のお客さまが「このお店、大好きなの」と惚れ込んでいるお店で、ご一緒させていただけることになりました。どんなお店なのか、期待が膨らみます。

当日、地図を見ながら歩いていくと、それらしいお店がなかなか見つかりません。「どこにあるのかな?」と、だんだん不安になってきましたが、たしかにありました。ありましたが……。

「えっ、ここ?」

外からは店内の様子がまったく見えません。お店であることは想像がつきますが、一見さんが気軽に入れるような雰囲気ではなく、扉を開けるのにも、ちょっと勇気が必要な感じです。扉の横を見ると、看板が出ていました。

幻の小料理屋が実践していた想像を絶する「トイレ掃除」お客さまに対するていねいな姿勢が伝わる看板

「お気軽にお声掛け下さいませ 営業いたしております」

不思議なもので、このひと言で、入りにくい雰囲気が払拭されました。しかも、お客さまに親しみを持っていただこうとする、お店の人の誠実そうな人柄が伝わってきます。この看板を見て、お店に対する印象が一気に変わりました。

看板は、お店にとっての「自己紹介」です。言葉遣いひとつで、印象がガラッと変わるものです。よくある「営業中」とか「商い中」という看板しか出ていなかったら、「どんな店なんだろう。ちょっと、やっぱりやめておこうかな」と、入るのを躊躇してしまうお客さまもいると思います。

でも、この看板を見れば「ていねいなお店だな」と安心できます。お店の外観とのギャップも相まって、期待がますます膨らんできました。看板のたったひと言で、お客さまの緊張や警戒心を解く、見事な「先味」です。

(※「先味」「中味」「後味」とは、『だから、また行きたくなる。』で定義している、お客さまの「リピート」や「紹介」を生むための法則です。次のページで詳しく解説します。)

(2)次の料理が楽しみになる
「ほんの少しの気遣い」

 お店に入ってみると、女将さんが厨房で料理をつくり、旦那さんがワインやお酒などのドリンクをサーブしているアットホームな中にも、凜とした空気を感じるお店でした。家庭料理のコースを頼むと、どれもやさしい味でおいしかったです。

中でも格別だったのが「タンシチュー」でした。大満足して食べ終わると、器がすっと下げられました。そして、なぜかお箸も一緒に下げられて、新しいお箸が並べられたのです。

幻の小料理屋が実践していた想像を絶する「トイレ掃除」タンシチューの後は、真新しいお箸で。

「あれ、器はともかく、なんでお箸まで……?」

別にお箸を落としたわけではありません。フォークやスプーンに替えられたわけでもありません。不思議に思いましたが、しばらくして、私は気づきました。

コースは和食が中心だったので、それまでの料理では、お箸に色がつくことはありませんでした。でも、タンシチューは違います。味が強く、お箸にシチューの色がはっきりとついてしまいます。

タンシチューに色がついたお箸でその後も食事を続けたら、お客さまにとって決して気分のいいものではないだろう。

お店の人は、きっとそう想像されたのでしょう。箸を替えたからといって、料理そのものの味が大きく変わるわけではありません。でも、私は、新しい箸が並べられた瞬間、次の料理がとても楽しみになりました。私にとっては、最高の中味だったのです。

(3)想像を絶する「トイレ掃除」

食事が終わり、帰り際にトイレに行こうと思って席を立ちました。
すると、旦那さんが私を制しました。

「お手洗いですか? すみません、少々お待ちください」

それほど広くないお店です。お手洗いに人が入っているかどうかはすぐにわかります。ほんの少し前に出てきた人を見たから、私は席を立ったのです。どうして待たなくてはいけないのか、理由がわかりませんでした。

「え、でも、誰も入ってないですよね?」

そう言って、トイレのほうに目を向けると……。
中からスタッフの若い方が出てくるのが見えました。

その後、私がトイレに入ってみると、ティッシュがきれいになっているだけでなく、洗面台のシンクまで水滴1つありませんでした。トイレを出て、私は、旦那さんに聞きました。

「もしかして、毎回毎回、お掃除をしているのですか?」

「ええ。お客さまが入られたら、必ず掃除しているんです」

旦那さんは、さも当然そうに言いました。
そして、トイレ掃除をしたスタッフの若い方にも声をかけました。

「ダイスケ、ありがとな」

お客さまのために、そこまで徹底的にトイレをきれいにする。しかも若いスタッフに、自然に感謝の言葉が出る。

看板の「先味」から始まり、お箸まで気遣う「中味」、そして帰り際の「後味」まで、このご夫婦がつくりだすお店の空気感に、私はすっかり魅了されていました。

私がいただいたのは、料理だけでなく「小さな感動」のフルコースでした。

さて、ここまで、私が感動した小料理屋さんのサービスを、3つに分けてご紹介しました。3つに分けたことには意味があります。お客さまに選ばれ続けるサービスには、3つ、心を動かされる場面があるのです。