「モノが売れない時代になった」と言われて久しい。しかし、それでも常に行列の絶えないお店があり、成長し続ける会社があり、結果を出し続けるビジネスパーソンがいる。商品の「値段」や「質」がほとんど変わらなくても、売れる人と売れない人、繁盛しているお店とそうでないお店がある。これは、なぜなのか?

本連載では、プルデンシャル生命2000人中1位の成績をおさめ「伝説のトップ営業」と呼ばれる川田修氏が、あらゆる仕事に通ずる「リピート」と「紹介」を生む法則を解き明かした話題の新刊『だから、また行きたくなる。』から、内容の一部を特別掲載する。(構成:今野良介)

ちょっと、下の写真をご覧いただけますか?

お客さまに選ばれ続ける料亭。「料理以外」の小さな工夫とは?なぜ、ビール瓶受けに「松の葉」が入っているのか?

これは、岡山県にある、「美作(みまさか)」という料亭でのひとコマです。

ここは、多くの人が、大切なお客さまをおもてなしするときにお連れする、地元企業の間で評判のお店だそうです。私は普段あまりお酒を飲みませんが、お客さまの社長に誘っていただきました。

ビールを頼んだら、ビール瓶の受け皿に、松の葉が2本入っていました。普通のコースターではなく「受け皿」というのが、風情があります。

でも、なぜか松の葉が入っています。
これは何を意味しているのでしょうか?

よく冷えたビール瓶を飲みかけのまま置いておくと、表面に水滴が浮かんできます。下に何も敷かないと、したたり落ちる水滴で、テーブルが濡れてしまいます。それを避けるためにあるのが、瓶を置くコースターや受け皿です。コースターに瓶を置いたり、受け皿に瓶を入れておけば、テーブルが水びたしになることはありません。

とはいえ、水滴がしたたり落ちることは変わりません。水滴が器にたまり、受け皿と瓶の底がくっついてしまうことがあります。そこで気づけばいいのですが、ビールを注ごうとする途中で受け皿が落ちて、テーブルにぶつかって大きな音をたてたり、料理の上に落っこちてしまったりすることもあります。あなたも、そんな経験はありませんか?

「この松の葉は、瓶がくっつかないようにするためですか?」

私は理由を知りたくなって、お店の人に聞いてみました。

「はい、そうです。それと、もう1つ理由があるんです」

女将さんは、にっこり笑うと、こう言いました。

「松の葉は必ず2本入れるようにしていて、あなたを私は松(待っ)ていました、という意味を込めているんです」

私がこのお店に行ったのは、一度だけです。

でも、もし岡山で大切な人をもてなす機会があったら、迷わず、私はこのお店を選ぶでしょう。

「普通」をちょっとだけ超える仕事が人を集める

このサービスについて、あなたは、どう思われますか?
「わかる! すごい!」と感心されたでしょうか。
「えっ、そんなことまでするの……」と驚かれたでしょうか。
「で、それが何?」と、疑問に思われた方もいるかもしれません。

いずれにしても、「普通じゃない」と感じたのではないでしょうか。

拙著『だから、また行きたくなる。』では、こうした「ちょっとした工夫」で、私自身が心を動かされ、実際にたくさんのお客さまが集まっているお店やサービスを、一流ホテルから、知られざる小さな飲食店まで、50以上、写真入りで紹介しています。

ビール瓶の底に松の葉を敷くことは、やろうと思えば誰でもできることです。

そんな、ある意味すごく簡単なことが、私の心を動かして、「あそこは、ほかと違う」「またあのお店に行こう」という気持ちにさせたのです。

「小さな感動」が
「リピート」や「紹介」を生む

ちょっと、ご自身の経験を振り返ってみてください。

自分が行ったレストランを、つい人に話したくなるとき。観た映画を、誰かに教えたくなるとき。誰かから話を聞いて、すぐ別の人に話したくなるとき。

人に何かを紹介したくなるのは、普段では感じられない「ちょっとした感動」があったときではないでしょうか?

冒頭で取り上げた事例も同じです。私自身が心を動かされたから、みなさんに「紹介」したのです。料理がおいしくても、ビールの受け皿に松の葉が入っていなかったら、「おいしかった」と思っただけで、人に紹介しようとは思わなかったかもしれません。人は、心を動かされると、人に紹介したり、リピートしたくなるものなのです。

フェイスブックやツイッターなどのSNSに投稿して、みんなに何かを伝えたくなったり、誰かの投稿をシェアしたり「いいね!」を押したくなるのは、あなたの心がちょっとでも動いたときだと思います。その結果、ある商品が爆発的に売れたり、あるお店に行列ができたりすることは、みなさんもよくご存じでしょう。すっかり定着した「インスタ映え」という言葉も、「ちょっと心が動かされた写真」と言い換えることができるのではないでしょうか。

そして同じように心を動かされた人たちが、その情報を拡散し、どんどん世の中に広まり、多くの人たちがつながっていくのです。

つまり、人が人に何かを伝えたくなる原動力は、感情的なものによるのです。

では、どうしたら、自分の仕事でお客さまの心を動かすことができるのでしょう。変わったことをすればいいのでしょうか。ほかよりも目立てばいいのでしょうか。

いいえ、違います。それだけでは、人は感動してくれません。いっときは面白がって話題にしてくれても、「また行きたい!」とか「誰かに紹介したい!」とまでは思ってもらえません。

お客さまの心を動かすものには、ちゃんと「法則」があるのです。
その法則を理解すれば、実行することも、意外と難しいことではないのです。

『だから、また行きたくなる。』では、どんなお店や会社にも共通する、「リピート」や「紹介」を生み出す2つの秘訣についてお伝えしています。

ぜひ、この本を、あなたの仕事、そしてあなた自身の人生を豊かにするために、使い倒してください。