世界トップに肉薄する国産AI
「AQ」の開発者はなんと個人

 世界の大企業が囲碁AIを開発する中、日本はどうだろうか。2016年からアルファ碁を超えるための「DeepZenGo」プロジェクトが進められており、国内のプロ棋士に勝利するAIが開発され、日本のナショナルチームの研究にも活用している。しかし、残念なことに、このプロジェクトは2018年5月で終了してしまった。

 そんな折、新たなエースが登場した。「AQ」だ。なんと、AQは山口祐さんが個人で開発している。ご本人いわく、「趣味です」とのこと。そのAQがなんと今大会の予選で、フェイスブックの開発するELFOpenGoに勝利した。

 ご本人はさらりと語るが、世界的に見ても個人開発でここまでの強さの囲碁AIは他にない。これは特筆に値すると思う。

 一方で、世界の囲碁AI開発は企業がリードする中、日本の企業で囲碁AIを開発するのは、筆者が知る限り、HEROZの「棋神」とトリプルアイズの「Raynz」の二つだけだ。個々で優秀な開発者は多いと思うが、全体の大きな潮流にはなかなかならず、世界のAI開発の現場を目撃した筆者としては、危惧を感じざるを得ない。

 7月末、1ヵ月にわたって行われた大会は決着した。絶芸vsGolaxyの決勝7番勝負は7戦全勝で絶芸の優勝。先ほど述べた準々決勝の一局だけ負けたが、大会を通して絶芸は圧倒的な強さだった。ベスト4に入ったのはELFOpenGoと日本のAQだ。

 筆者の見るところ2位から4位は僅差であった。優勝した絶芸はアルファ碁ゼロと同等の強さに達したと思われ、2018年後半は絶芸を追いかける激しい
競争が予想される。筆者の欲を言えば、アルファ碁ゼロと絶芸の対戦をぜひとも見たい。

 さて、囲碁棋士の筆者だが、この大会で世界のAIをめぐる激動を感じ、自分と同年代で活躍する開発者に刺激を受けて、若手棋士を中心に「プロジェクトAI」という研究グループを立ち上げた。

 囲碁棋士とは、いま、世界で最も「AIとどう共生していくか」が求められている職業だと思う。囲碁AIの盤上の打ち手の研究はもちろん、棋士の育成に囲碁AIをどう活用するか、棋士から見るAI研究、開発者の方々との交流などを通して、囲碁AIとどう付き合っていくのか、みんなで考えていきたいと思っている。

 人間の個の力には限界がある。AIが台頭する社会では人間のネットワークがこれまで以上に重要になってくるだろう。

(公益財団法人日本棋院・六段 大橋拓文)