100業種・5000件以上のクレームを解決し、NHK「ニュースウオッチ9」、日本テレビ系「news every.」などでも引っ張りだこの株式会社エンゴシステム代表取締役の援川聡氏。近年増え続けるモンスタークレーマーの「終わりなき要求」を断ち切る技術を余すところなく公開した新刊『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』に発売前から需要が殺到している。
本記事では、最新のクレーム事情のなかから、高齢者のクレーマー、いわゆる「シルバーモンスター」の事例を特別公開する。(構成:今野良介)

なぜ、高齢者が「モンスター化」するのか?

教師に過剰な対応を要求する「モンスターペアレント」や、医師や看護師などにくってかかる「モンスターペイシェント」など、さまざまな職業におけるクレーマーが取りざたされています。なかでも、モンスター化した高齢者、いわゆる「シルバーモンスター」が今、大きな社会問題になっています。

『犯罪白書』(平成29年版)によれば、2016年の刑法犯検挙者のうち65歳以上の高齢者は、ほかの年齢層と比較して最も多く、全体の20.8を占めました。

とくに、暴行で検挙された高齢者は、20年前の約40倍にのぼっています。

暴力事件とクレームを同一視することはできませんが、それらの「病巣」は根っこでつながっていると考えられます。いくつかの事例を紹介しましょう。

目的は「論破すること」。<br />高齢化で急増する<br />“シルバーモンスター”の脅威正当な要求を逸脱した高齢者のクレームに悩まされる人は多い。

-----【病院の事例】-------

「孫に何かあったらどうするんだ! 責任者を呼べ!」

病院の待合室で突然、70代とおぼしき男性が大声を張り上げた。その横では、泣きべそをかく幼児が母親に抱かれている。

若い職員があわててかけ寄り、「大丈夫ですか?」と声をかけたが、男性は「大丈夫なわけないだろう。こんなに泣いているじゃないか!」と激高。

幼児は定期検診のため来院しており、とくに体調が悪いわけではなかった。待合室を歩き回っているうちに転んだだけである。外傷もなく、男性が怒鳴っている間に、すでに泣き止んでいた。

それにもかかわらず、男性は職員につかみかからんばかりの剣幕だ。

職員はオロオロするばかりだった。

(了)

なぜ、この男性は、これほどまでに怒りをあらわにしたのでしょうか?

じつは、孫と娘に付き添っていた男性は、「自分が頼りにされていること」に満足感を覚えていました。だから、「孫が泣く」という事態そのものが許せなかったのです。

また、健康関連商品を扱う企業には、健康に不安を抱える高齢者からのクレームが集まりやすくなります。次の事例をご覧ください。

-----【食品通販の事例】-------

通信販売で購入したサプリメントについて、高齢男性からクレームがあった。

「1日4粒のはずでしょ。どうして20日もしないうちになくなるのよ?」

コールセンターの担当者は、男性の購入履歴を確認したうえで、商品の説明に入った。

「○○様、お客様にお買い求めいただきましたサプリメントは、ご体調がすぐれないときに適宜、飲んでいただくものです。したがいまして、必ずしも1瓶1ヵ月分というわけではございません」

一瞬、男性の声が途絶えた。しかし、すぐにこう反論してきた。

「購入する前、オタクに電話で確かめたら、たしかに1ヵ月分と言っていたぞ!」

担当者は、どう返答していいのかわからず、チーフに助けを求めた。

(了)

このクレームは、男性の誤解によるものですが、高価なサプリメントだけに、自分の間違いをなかなか認めようとしないのです。

また、次の事例のように、高齢者が「モンスターペアレント」を演じたケースもあります。

-----小学校の事例-------

70歳の誕生日を目前に控えた男性。

現役時代は仕事人間で、わが子の運動会を観戦したことは一度もなかったが、退職後は、あり余る時間を小学生の孫のために費やしていた。

「ウチの子は中学を受験するつもりです。ところが、なかなか成績が伸びない。塾にも通わせているが、学校の授業に問題はないんでしょうか?」

男性は、校長室で担任教師と教頭を前に、まくしたてた。

「基本的に学習指導要領に沿いながら、それぞれの児童に合った指導をしています。先日、ご父兄を交えた三者面談でじっくり話し合いました」

担任が答えると、男性は眉間にシワを寄せて追い打ちをかける。

「三者面談で何を話し合ったんですか? 詳しく教えてください」

担任はしかたなく、進路指導の内容を繰り返し説明した。

しかし、なかなか話が通じない。男性はもう1時間以上、校長室に居座っている。教頭が「そろそろ職員会議が始まりますので」と面談の終了を促すが、男性はまったく意に介さない。

「いや、話はまだ終わっていない。ウチの子の将来がかかっているんですよ! だから、今の教育はダメなんだ!」

(了)

本来、分別があるはずの高齢者が、なぜこれほど身勝手な行動をとり、理不尽な要求を突きつけるのでしょうか?

その理由をひと言でいえば、疎外感や孤独感、焦りなどが、怒りの「火薬庫」になっているからです。

シルバーモンスターは、さびしさを抱えていることが少なくありません。仕事をリタイアし、自分の存在価値を認めてほしくても、話を聞いてくれる同僚や部下もいません。家族から疎んじられているケースもあります。

その満たされない思いが、クレームという形で吹き出すことが多いのです。

「説教」する団塊世代に注意

「2025年問題」という言葉をご存じでしょうか?

2025年には、団塊の世代が75歳を超えて後期高齢者となり、国民の約3人に1人が65歳以上、5人に1人ほどが75歳以上という「超高齢社会」を迎えます。それにともない、介護・医療費などの社会保障費の急増などが懸念されています。

クレームの現場では、こうした危機と混乱を先取りするかのように、団塊の世代がモンスターとして顕在化しています。

この、いわゆる「団塊モンスター」は、企業戦士として仕事に没頭し、激しい競争社会で身につけた交渉力を武器に相手を「論破」しようとするのが特徴です。

なかでも、学生運動に青春を捧げるなどの「インテリ系」や、理想が高く、社会や政治への関心も強い人は、自分の生き様に自信とプライドをもち、正論で意見しながら、しだいに説教へとエスカレートすることが多いようです。

彼らは、金品をかすめ取ろうとしているのでもなければ、必ずしも悪意をもってクレームをつけているわけでもありません。「善意」から説教しているのです。

その一方で、「自分の居場所」を失って「鬱屈した感情」を抱え込んでいるため、ちょっとしたきっかけで暴発するおそれもあります。

だからこそ、クレーム担当者は対応に苦慮することになります。

もう1つ、担当者が頭を悩ませたシルバーモンスターの事例を紹介しましょう。