-----食品メーカーの事例-------

食品メーカーで部長職までのぼりつめた68歳の男性。在職中は品質管理ひと筋でISO規格の導入なども手がけた。衛生管理に精通しエネルギッシュな仕事ぶりだったが、口やかましい性格が災いし、彼を慕う部下はほとんどいなかった。

数年前に退職した彼は、食品業界でシルバーモンスターとして立ち回った。
いわば、業界の「OBモンスター」である。

「オタクの練り製品を買ったんだけど、髪の毛みたいなのが入ってたんです」

食品メーカーにとっては悩みの種である異物混入のクレームだ。
男性は担当者を自宅に呼んで、事情説明を求めた。

「御社では、どんな衛生規格で製造しているんですか? 検査方法は?」

穏やかな口調で質問し、担当者が説明すると、「なるほど」と感心した様子で聞き入っていた。しかし、話が一段落すると攻撃に転じてきた。

「衛生管理がそんなにきちんとしているなら、なぜこんなものが混入したんでしょうかね?」

クレーム担当者が衛生管理の技術者でないことを見越したうえで、いじわるな質問をしたのだ。担当者は現品を検体として持ち帰り、異物が何であるかを特定したうえで混入経路を究明したい旨を申し出るが、男性に断られてしまう。

「異物の検査は、私がしかるべきところでやってもらうので結構です。それより、御社のISO規格や検査の頻度・レベルについて書かれたドキュメントがあるでしょ。まず、それを見せてください。そうすれば、異物混入の原因がはっきりするはずですよ」

担当者は、男性の求めているものが何なのかがよくわからなくなったが、異物混入の原因究明を、お客にゆだねるわけにはいかない。

「弊社としても大きな問題なので、しっかり調査したいんです。どうか現品の提供をお願いいたします」

 しばらく押し問答が続いたが、ISO規格をはじめとする資料の提供を条件に「それでは半分、渡しましょう」と男性が承諾したあと、長広舌をふるった。

「私は御社のためを思って言っているんです。僕が自前で検査すれば、御社も助かるでしょ。費用も時間も節約できるんですから。それに御社の衛生管理体制も精査してみましょう。僕はこれでも結構、衛生管理には詳しいんですよ」

男性と食品メーカーは、それぞれの検査機関に検体を提出した。担当者は「結局、この男性の目的は何だったのだろうか?」と首を傾げながらも、ホッと胸をなでおろした。

ところが、話はここで終わらなかった。

後日、男性から「検査結果が出たので、それを持って御社の工場を見学したい。再発防止のお手伝いをさせてほしい」という申し出があったのだ。

担当者は再び、頭を抱えることになった。

(了)

退職後に孤立感を深めた男性が、身につけた専門技能を社会で活かすことができないまま、いびつな形で自分の存在感を示そうとしているのです。

この男性に限らず、現役時代に大きな業績を残したり、周囲からチヤホヤされたりしていた人が、引退後に「ふつうのおじさん」扱いをされると、一種の疎外感を覚えるものです。それが、結果的に怒りの沸点を下げることになりかねないのです。

団塊世代のクレーマーは、しばしば「店内の陳列をもっと工夫しろ!」「接客態度がなっていない!」「安全対策を怠っている!」などと、企業にクレームを寄せますが、こうした心理が働いていることが少なくありません。

『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』では、こうしたシルバーモンスターへの対応法のほか、ネット炎上を鎮火させる方法など、クレーマーの終わりなき要求を断ち切る23の技術を余すところなく紹介しています。

ぜひ、使い倒していただき、万全の危機管理体制を整えた上で、「顧客満足」を追求してください。