「月も朧《おぼろ》に 白魚の 篝《かがり》もかすむ 春の空
冷てぇ風に ほろ酔いの 心持ちよく うかうかと
浮かれ烏《がらす》がただ一羽 寝ぐらへ帰る 川端で
竿の滴《しずく》か 濡れ手で粟《あわ》 思いがけなく 手にいる百両
ほんに今夜は 節分か 西の海より川の中 落ちた夜鷹は厄落とし
豆だくさんに一文の 銭と違って金包み
こいつは春から 縁起がいいわえ」
…の名ゼリフで知られる、河竹黙阿弥《かわたけ もくあみ》作「三人吉三廓初買《さんにんきちざ くるわのはつがい》」。
同じ「吉三」という名を待つ三人の悪党が出会い、手を結ぶきっかけとなる「大川(現:隅田川)端」の場面の序盤で、大店《おおだな》の娘に化けた「お嬢吉三」が、夜鷹(夜、路上で客を引く娼婦)の「おとせ」の財布を奪って川に突き落として殺害したところ、財布にはなんと百両もの大金が。
上機嫌で詠み上げたのが、冒頭の七五調の長ゼリフというわけです。
【材料】白魚…100g/卵…2個/出汁…1カップ(100ml)/酒…大さじ1/塩…1つまみ/みりん…大さじ1/海苔…適量
【作り方】①白魚は塩水で洗い、卵はよく溶いておく。②鍋に出汁と酒を入れて中火で煮、白魚を加えてアクを取りながら煮る。③煮汁が半分になったら溶き卵を回し入れ、蓋をして2分程度蒸らしたら器に盛り、海苔を刻んで乗せる。
わざわざ女装して、貧しい夜鷹の懐を狙うなど、女装の美青年という設定ながら、「お嬢吉三」はさもしい小悪党としか思えず、しかもこの「おとせ」、大金を落とした客がさぞや困っていようと、落とし主を探していて殺されるのですから哀れなものです。