「婚礼の席には蛤の吸い物を」と決めたのは、八代将軍・徳川吉宗です。
今や蛤は高級食材なので、このお触れを聞いた当時の人々の感覚は、現代人にはつかめないかも知れませんが、これは実にしみったれた政策だったのです。
吉宗が蛤と決めるまでは、婚礼の席には山鳥や兎、大名家では鶴や白鳥といった、高価な食材をつくねにした汁物が出されていました。
これに反して、江戸前の海は遠浅で、川から流れ込む栄養分が混じるため、蛤を始め、浅利や蜆、バカガイ、サルボオなどがザクザク獲れていました。
【材料】蛤…3個/酒…大さじ3/水…大さじ3/はんぺん…1枚/蒲鉾…2cm幅/蓮根…2cm幅/塩…少々/片栗粉…大さじ1/薬味(桜茶、あさつき、三つ葉など)…適量
【作り方】①鍋に水と酒と砂抜きをした蛤を入れて煮、蛤の口が空いたら身を取り出す。②はんぺんをすりつぶし、皮を剥いて粗みじんに切った蓮根と蒲鉾を加え、塩と片栗粉を加えて混ぜる。③2を3等分してラップにくるみ、てっぺんに1をのせて茶巾に絞る。これを蒸すか、電子レンジで2分加熱する。④1の煮汁を温め、器に盛った3にかけ、お好みの薬味を乗せる。
つまり現在に例えるなら、「披露宴に出す魚は、今後はアジに統一」と決められたようなもので、いくら味が良かろうが、普段から食べている蛤では、ハレの日気分が台無しになったことは想像に難くありません。
将軍様なのに木綿の着物で通し、大奥の美女50人を「今ならまだ貰い手があるから」とリストラした、歴代将軍中随一の倹約家、吉宗らしい政策です。
とはいえ、蛤が夫婦和合の象徴であったことは、平安時代から伝わる「貝合わせ(貝覆い、とも)」と呼ばれる遊びからも伺い知ることができます。
蛤は他の個体とは形が合致しないことから、二夫にまみえぬ貞淑の証、とされてきたのです。