------洋菓子店の事例-----------

2015年9月、45歳(当時)の女性が詐欺容疑で兵庫県警に逮捕された。洋菓子店やパン屋に「ケーキに髪の毛が入っていた」などと偽りのクレームを入れ、商品代金や代替品をだまし取った容疑である。

事件が明るみになったのは、大阪府豊中市の洋菓子店と神戸市北区のパン店から、それぞれ「ショートケーキ1個」「現金1085円とクリームパン2個」を詐取したことが発端だった。

ところが、捜査の過程で驚くべき事実が浮かび上がってきた。

携帯電話の通信記録を洗い出してみると、犯行が発覚するまでの8ヵ月間で、全国各地の洋菓子店やパン店など約3200店に、計1万2000回もの電話をかけていることがわかったのである。

手当たりしだいにターゲットを物色していたのか、電話番号案内「104」にも5000回以上かけていた。

その後、女は「これまでに500回くらい(詐取に)成功した。現金や商品で60万円以上をだまし取った」と供述。また、「2013年の秋、大阪市内のケーキ店で商品を購入した際、『髪の毛が入っている』とクレームをつけたら、レシートや現物を見せなくてもお詫びの商品をもらえた」と、常習化のきっかけを明かしている。

(了)

この女性は、大手食品メーカーなどで名の通ったクレーマーでした。

一部の報道によれば長年、生活保護を受けながら高齢の母親と二人暮らしだったようですが、年齢からいえばバブル世代。かつては、華やかな暮らしぶりだったようですが、劣等感や不満を抱えるようになり、そんな中、企業や店の丁寧な対応ぶりに優越感を覚えたとしても不思議ではありません。そして、思いがけない「成功」で味をしめ、常習クレーマーの道を歩みだし、犯罪者となってしまったわけです。

これは極端な例だと思われるかもしれませんが、理不尽な要求を一度受け入れてしまい、クレーマーが成功体験を得て常習化するケースは、非常によくあるのです。
担当者がクレーマーを育ててしまった、とも言えるでしょう。

だからこそ担当者は、クレーム対応の原理原則を知り、一度でもクレーマーの理不尽な要求に屈してはいけないのです。

ただし、役所などの公的機関では、複雑な問題を抱えています。クレーマーであっても納税者である以上、担当者はどうしても弱腰になりがちだからです。いわゆる「お役所仕事」は市民からバッシングを受けがちですが、今や、そんな悠長に仕事をしている職員は少数派ですし、民間企業より激しいクレーマーの被害に遭っている職場もあります。

たとえば、保健衛生に関する通知を出すと、

「どうして、そんなことを行政が独断で決めるんだ!」
「杓子定規な対応をするな!」
「公務員でいい身分だな!」

と、敵意をむき出しにするモンスタークレーマーも少なくありません。
「顧客満足」ならぬ「市民ファースト」を逆手にとって、傍若無人な振る舞いをするのです。

しかし、公的機関であっても、クレーム対応の原理原則に変わりはありません。『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』では、こうした時代背景の中で、急増するモンスタークレーマーの“終わりなき要求”を断ち切る23の技術を、会話術から法律知識まで、余すところなく紹介しています。

ぜひ、日々のクレーム対応に使い倒していただき、万全の危機管理体制を整えた上で、「顧客満足」を追求してください。