震災や水害など大規模災害時、ペットは飼い主が連れて「同行避難」するのが大原則だ。ただし、避難先で一緒に生活できるとは限らない。先の西日本豪雨の被災地では、早くからペット同伴者の専用避難所や居住スペースが設けられたが、南海トラフ巨大地震や首都圏直下型大地震で人口密度の高い都市部が広範囲に壊滅した場合、被災者が殺到する避難所でペットと“同居”できる可能性は極めて低い。一時的にせよ、愛犬、愛猫と離れることを想定した時、飼い主は何ができるのだろうか。(医学ライター 井手ゆきえ)
一次避難は同行したけれど……
避難所では敷地内別居が現実的
2016年4月14日(余震)、16日(本震)に発生した熊本地震では当初、明確な規則がないまま被災者と被災動物(ペット)が避難所で同居し、さまざまなトラブルが発生した。鳴き声や排泄行為への苦情に遠慮し、やむなく車中泊や半壊した自宅での避難を選んだ飼い主も少なくなかった。
その後、現地獣医師会の要請を受けた一部の自治体や民間ボランティアがペット同伴者専用のスペースやペットの一時預かり所を開設。ペットと飼い主を移動させ、二次災害と車中泊によるエコノミークラス症候群(急性肺静脈血栓症)などの健康被害の広がりを防いだ経緯がある。
公益社団法人東京都獣医師会危機管理室防災セクション/災害動物医療研究会幹事を務める藤本順介・ふじもと動物病院(東京都三鷹市)院長は、「大都市圏が被災した場合、避難所の数や面積は圧倒的に足りず、被災者すら十分に収容できるとは限りません。被災者のおよそ2割がペットと同行避難すると想定した場合、屋内での“同居”はまず無理でしょう。避難所の敷地内に設けたシェルターでの“別居”が精いっぱいだと思います」と指摘する。
西日本豪雨災害の事例は被災者数が数千人規模にとどまり、避難所に広いスペースを確保できたから可能だった。しかし、100万人単位で被災者が発生するといわれる都市部の大災害では、ペットとの“同居”避難は夢物語にすぎない。