その当時に、会社勤めの傍ら不動産投資を始め、今では不動産投資コンサルティング会社を経営する溝口晴康氏は「当時の不動産投資にはスルガ銀行が欠かせない存在だった」と述懐する。

 東証1部上場企業に勤めていた溝口氏は、所有していた株式の価値がリーマンショックで大幅に下落したため、現物のある不動産投資に興味を持った。

 不動産会社を通じて紹介された物件を購入しようと、金融機関に相談したが、「自己資金を3割用意してくれと言われました。物件の価格は7700万円だったので、2310万円を現金で持ってなければ貸せないというわけです。サラリーマンをやりながらそれだけの貯金ができる人はいないでしょう」

 複数の銀行に融資を断られて、諦めかけたときに出合ったのが、スルガ銀行だった。スルガ銀行だけは、自己資金は1割でいいと言われ、川崎市内の賃貸マンションを購入したという。

 スルガ銀行のローン金利は4.5%で、入居者から入ってくる家賃は、返済にあてるとほとんどが残らなかった。そこで実践したのが、金利交渉と他行への借り換えだ。

 確定申告のたびに金利交渉を行い、最終的には3.1%まで金利を下げたという。こうして手元のキャッシュを増やしながら、スルガ銀行の融資で2011年、2014年と1億円前後の賃貸マンションを追加で購入。最初に購入した川崎市内の物件を売却すると同時に、他の物件ローンは金利の安い別の地銀へと借り換えした。

 与信評価のゆるいスルガ銀行融資で不動産を購入し、金利交渉や借り換え、売却などで収益を増やす手法は「スルガの毒抜き」と言われ、不動産投資家の間では常識だという。

 サラリーマンほどの稼ぎしかない者が、ワンルームマンションではなく、5000万円以上の中古アパートや中古マンションを1棟購入するには、一度はスルガの毒を食らわなければいけないということだ。

 しかし、誰もが毒抜きに成功できるわけではない。溝口氏も「自身は幸運だった」という。

「最初に購入した物件がリーマンショック直後で底値だったことと、アベノミクス以降の不動産価値の上昇があったから売り抜けが可能だった。物件のある武蔵小杉が人気になったことも大きい。知識もない中で、現在のように三為業者に何割も利益を乗せられて購入していたら厳しかったと思う」

 そもそも金融機関が融資できない以上は、その不動産投資はもうかりにくい案件と言える。投資といわず、マンションやアパートを経営するのに適性があるかどうかを、金融機関が審査していると考えればわかりやすい。

 もちろん無理に購入しても、将来的に値上がりして売り抜けることができれば良い。しかし、手元資金に乏しい人が、キャッシュフローが少ない不動産を持てば、設備の故障など急な出費に対処できない可能性が高い。

 そういった適性のない客にまで、不動産を販売しようとする中で、不動産業者による預金通帳の改ざんなどが横行するようになる。与信のザルにつけ込まれたのだ。