元警部補が懸念するのは「とにかく、警察官(に拳銃の置き忘れ・紛失)が多い」という点だ。というのは、実は拳銃の所持が認められているのは警察官だけではない。自衛官、海上保安官、麻薬取締官、税関職員、入国警備官・審査官、刑務官などさまざまな職種に許可されているが、確かに警察官以外に拳銃の置き忘れ・紛失がニュースになったケースは聞いたことがない。

 所持している警察官の人数がほかと比べて桁違いに多いから、不注意で発生する可能性が高いのは仕方ないという見方もできるが、元警部補は「昔に比べて緊張感が薄いのではないか」と危惧する。

 さらにこの元警部補が今年、ショックを受けた事件が2件あったという。滋賀県彦根市で4月、巡査が上司を射殺した事件、富山市で6月、警察官が交番で刺殺されて拳銃が奪われ近くで警備員が射殺された事件だ。

 彦根市では4月11日午後7時45分頃、彦根署河瀬駅前交番で男性巡査部長(当時41、警部に昇進)が、部下の巡査の男(当時19)に背後から射殺された。元巡査は「怒鳴られたからやった」「書類を何度も書き直させられストレスがあった」などと供述したとされるが、目立ったトラブルは見当たらず、動機に不明な点は多い。

 元警部補は「これまでもパワハラ上司が冗談半分で銃口を部下に向けたという話はニュースで耳にしたことはあったが、本当に引き金を引いてしまうなんて…」と首を振った。事実、現職の警察官が同僚を射殺したのは日本の警察史上、初めてだった。

 事件当時、元巡査は未成年だったが、大津地検は殺人と銃刀法違反の罪で起訴した。今後、大津地裁で公開の裁判員裁判が開かれる予定だ(日程は未定)。

 富山市では6月26日午後2時頃、富山中央署奥田交番で元自衛官の男(当時21)が男性警部補(当時46、警視に昇進)の腹部30ヵ所以上を刃物でメッタ刺しにし、拳銃を奪って逃走。さらに小学校付近で工事の警備員をしていた男性(当時68)に向けて至近距離から発砲し、2人はいずれも死亡した。

 過去の新聞記事を調べる限り、警察官が拳銃を奪われ、民間人が射殺されたのは1984年9月以来だ。京都市で男性巡査が刺殺されて拳銃を奪われ、大阪市で消費者金融の男性店員が射殺された事件で、犯人は元警察官。郵便局強盗の前科もあったことから、1997年に最高裁で死刑が確定している。

 富山市の事件は元自衛官が斧(おの)やダガーナイフなどで武装した上、不意を突かれたため防ぎようはなかったとされる。一方で元警部補は相次ぐ紛失などを念頭に「稲葉事件のように、何か拳銃に対する心構えが信じられないほど軽くなっている」と顔を曇らせた。