少年工科学校時代の同期・Bさん(前出)は、次のように語る。

「九州大学法学部卒の学歴だけを見ると素晴らしいのに、そんなに困窮していたとは……。我々は15歳のときから親元を離れ、『同じ釜の飯を食った仲間』です。何らかのメッセージがあれば、みんな、何らかの形で協力できたと思うのですが」

 しかし、Aさんは少年工科学校時代の同期との繋がりを、ほとんど維持していなかったようだ。その思いは、私には少しだけ理解できるような気がする。元同期のBさんたちは、キャリアを築き、家庭を持ち、若干の不足やトラブルがあっても「それなり」「普通」の人生を送っている。あまりにも輝かしく、近づけない存在に見える。それが「一院生」「一オーバードクター」という立場の切なさだ。

法学部卒の知識を生かさず
肉体労働を行った意外なメリット

 しかし、私には1つ疑問が残る。Aさんはなぜ、肉体労働を選んだのだろうか。報道によれば、肉体労働を開始した2017年以後、Aさんは激しく体重を減少させていたという。研究への思いを抱き続けていたAさんが、研究と生計の両立に苦労していたようだという報道もある。事務やスーパー・コンビニに比べれば、肉体労働の時給は高い。研究時間を確保するには、好ましい選択なのかもしれない。それにしても、「法学部卒の知識と人脈を使って法律事務所でアルバイトをする」という路線が、私には自然に思える。

 いずれにしても、筋力が低下している身体障害者の私にとって、「お金が足りないから肉体労働」という選択肢は、最初から考えられない。そこで、同様の選択をした50代の男性クリエイター・Cさんに、「なぜ肉体労働?」と尋ねてみた。Cさんは実績あるコンテンツ・クリエイターだが、業界の地盤沈下に伴い、土木・建築の現場での「ライスワーク」によって「ライフワーク」を支える選択を行い、現在に至っている。

「僕にとって1つ考えられるのは、Aさんが『肉体労働の方がストレスは少ない』と考えた可能性です。Aさんは、法学という専門分野で努力してきた方ですから、上下関係のあるアルバイトでの『感情労働』には強い抵抗感を抱いた可能性もあります。肉体労働の現場は、意外にハラスメントが少ないのです」(Cさん)

 納得できる説明だ。