これは、広報戦略のエキスパートである世耕弘成氏の経産相起用と合わせてみると、安倍政権では社会保障政策や成長戦略は、所詮支持率獲得の道具にすぎず、場当たり的に政策が打ち出されるだけといえるのではないか。その結果、本来これらの政策に必要な中長期的な戦略はいつまでたっても出てこないと、この連載では批判を繰り返してきた。だが、見方を変えてみると、これにはいいところもある。

 橋下徹前大阪市長(元維新の会代表)は、最新の著書で自民党について、国民のニーズを吸い上げる「マーケティング戦略」に長けていると評している。筆者も、橋下氏の見方に基本的に同意である。

 そのマーケティングの中核を担ってきた加藤氏の総務会長起用は、参院選に向けて、所属議員、公認候補、地方組織で一丸となって、国民のニーズを徹底的にマーケティング調査しようという意図があるように思う。これは、野党側を自民党がはるかに凌駕している部分であり、フェアに評価すべきである。

安倍首相は不退転で
憲法改正を進める意思を示した

 そして、安倍首相の悲願「憲法改正」についてである。石破元幹事長の総裁選での「善戦」によって、安倍首相が提起する「現行憲法9条の1項、2項を残しつつ自衛隊の存在を記述する」の私案をベースとする改憲案が後退し、石破元幹事長がかつて党憲法改正推進本部副本部長として取りまとめた「憲法9条削除」「フルスペックの集団的自衛権を行使できる国防軍を保持」などを明記した「自民党憲法草案」が再浮上する可能性がないわけではなかった。

 だが、安倍首相は、その芽を完全に摘むための手を打った。党憲法改正推進本部長に下村博文元文科相が起用された。安倍首相の出身派閥である細田派の事務総長を務め、自らに近い考えを持つ下村元文科相の起用は、安倍首相が目指す秋の臨時国会での憲法改正案提出に向けて議論を加速させる狙いがある。

 そして、なにより驚かされたのは、反主流の石破派から唯一、山下貴司氏が閣僚に法相に起用されたことだ。山下新法相は、東京地検特捜部にも勤務経験がある元検察官で、外交官(一等書記官件法律顧問)としてワシントン大使館に勤務し、従軍慰安婦訴訟や戦時捕虜訴訟で勝訴した実績があるという。政治家としても、当選3回ながら議員立法で8本の法案を起案し成立させた実績を持ち「ミスター議員立法」と呼ばれる。高い法務実務能力が評価される政治家である。