「アイツ、怪しい…」会社をカゲで裏切るスパイ社員の特徴【マンガ】『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第54回では安定株主について解説する。

「魔物」はすぐ身内にいた!

 証券アドバイザーである牧信一郎の提案もあり、自らが興した会社・ハナオカのIPO(新規上場)に先駆けて安定株主を探しはじめた主人公・花岡拳。

 IPO後もハナオカを実質的に支配するためには、経営者や従業員、金融機関をはじめとした安定株主に過半数以上の株式を持ってもらうのが理想だ。そこで牧は「個人的付き合いがあって、信頼の置ける方に株式を持って頂くという方法があります」と、含みを持たせて花岡にアドバイスする。

 その言葉で花岡は、アパレル事業を始める際に出資をし、さらには牧を紹介した人物である投資家・塚原為ノ介を思い浮かべる。

 成功者である塚原が牧を紹介したのは、花岡のIPOをサポートするという善意だけではない。安定株主となることで、隙あらばハナオカを丸呑みしようとする、海千山千の経営者としての計算もあったのだと気付く。

 加えて花岡のライバル・井川泰子はハナオカの幹部である片岩八重子(ヤエコ)を仲間に引き入れるべく会食を繰り返し、ハナオカの株主構成をはじめとして、情報を引き出そうと必死だ。

「イヤよ、そんなスパイみたいなこと!!」と口では拒否するヤエコだが、徐々に井川の魔の手に籠絡(ろうらく)されつつあるようにも見える。

 花岡はそんな状況を整理して、こうつぶやく。

「実は…魔物はすでに俺のすぐ身内にいたということか!」

「物言う株主」が台頭する中、安定株主はどこまで“安定”なのか

漫画マネーの拳 7巻P5『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 ここであらためて、安定株主とはどんな株主か説明すると、「短期の値動きでマネーゲームとして株式を売買せず、中長期で保有する傾向が強い株主」と言えるだろう。

 上場後も経営者として事業をけん引する立場となる(ことが一般的な)創業者をはじめ、上場前からの役職員、社員で構成する持株会、付き合いの長い取引先や金融機関なども安定株主たりえる存在だ。

 これに対して、一定の株式を集め、経営陣に影響を与えようとする投資家をアクティビスト(物言う株主)と呼ぶ。

 IPO、つまり上場すると自社の株式を市場で分散させることになるのが普通なので、創業者の持分は相対的に薄まる。だからこそ議決権の「地盤」を固め、敵対的な買い集めや短期的な「売り」の圧力に備えるわけだ。

 牧のアドバイスや、それを受けた花岡が「過半数の味方」を求める理由もここにある。

 しかし安定株主というものは、法的な定義があるわけでもなければ、絶対に株式を売らない存在という訳でもない。事業環境や資本効率などなど、当事者間の事情次第では、昨日の友が明日の敵…とはならなくとも、味方でなくなることもあるのが資本市場だ。

 現実の市場においても、「安定株主」の存在は揺らぎ始めている。直近でそれを示した1つの事例は、養命酒製造の事業売却だ。同社では長年の大株主が保有株を手放し、新たな株主として著名アクティビストに近い人物が参画した

 結果として同社は、一気に緊張状態に置かれることとなり、コア事業の売却に至った。物言う株主が台頭してきた今では、「支えてくれるだろう」という甘い期待では経営が回らない。

 塚原による自社の支配におびえつつも、むしろ相手の懐に飛び込み、急所を突くことができないかと考えた花岡。塚原のもとに向かい、安定株主としての株式の保有に加えて「あるお願い」をするのだった。

漫画マネーの拳 7巻P6、P7『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 7巻P8『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク