あれから2年近くを経てムーア監督は、トランプ大統領を標的にした新作「華氏119」を引っさげてスポットライトの下に戻ってきた。

 9月21日の映画公開に合わせて出演したテレビ番組で、トランプ大統領の2年間について問われたムーア氏は、「想像していたよりもはるかにひどい状況だ。民主主義や法の支配への敬意がまったくなく、外国の独裁的な指導者を称賛している。もし国家の非常事態が起きたら、国民の人権や報道の自由はどうなるかわからない」と述べ、こう警告した。

「民主党の関係者や支持者は11月の中間選挙で下院の過半数を奪還できると自信を持っているようだが、私には少し楽観的すぎるように思える」

 さらにムーア氏はトランプ大統領が2020年に再選される可能性にまで言及した。民主主義や法の支配を守ろうと訴えている人々にとっては悪夢のシナリオだが、それにしても米国はなぜ、こんな状況になってしまったのか、そしてこれからどうなるのか。

選挙の勝ち方を心得ている「悪の天才」

 2016年の大統領選で、トランプ候補は得票数でヒラリー・クリントン候補を約290万票も下回ったが勝利した。それができたのは得票数で負けても、「ラストベルト」(さびついた工業地帯)と呼ばれる中西部の4州と、他の共和党が優位な州「レッドステート」を全て押さえれば勝てるとの計算があったからだろう。

 ムーア氏は前述の記事のなかで、「トランプはミシガン、オハイオ、ウィスコンシン、ペンシルベニアのラストベルト4州に意識を集中させるだろう」と書いていたが、その指摘通り、トランプ陣営は選挙戦の終盤にラストベルトでの活動に全力を注いだ。

 ムーア氏がトランプ候補の勝利を予想できたのは、彼自身がラストベルトの一つ、ミシガン州フリントの出身であることと無関係ではないだろう。同州はかつて自動車産業など製造業の中心地として栄えていたが、近年は産業の空洞化で取り残され、とくに白人労働者の怒りや不満が高まっていた。「強いアメリカを取り戻す」などのスローガンを掲げたトランプ氏が、彼らの不満をうまく取り込み、支持を増やしていたことをムーア氏はよく知っていたのだ。

 一方、クリントン陣営は、ラストベルトは伝統的に民主党が強かったこともあって多少油断したのか、選挙活動にあまり力を入れていなかったようだ。それが勝敗を分けたと言っても過言ではないだろう。