このようにムーア氏は、民主主義の制度が邪悪な指導者によって危機にさらされていることを繰り返し指摘する。しかし、米国の民主主義を支えているのはシステムだけでなく、民主主義を守ろうとする人々の意識や文化、勇敢な行動などである。たとえば、トランプ大統領の就任翌日には全米で大規模な抗議デモが展開され、強硬な反移民政策や白人至上主義擁護発言などに抗議する活動も頻繁に行われている。

 米国社会は現在、保守派の共和党支持者とリベラル派の民主党支持者で真っ二つに分断されている。しかし、半数以上の米国人は移民や銃規制、同性婚などの問題でリベラルな政策を支持している。つまり、彼らは全ての国民が医療保険に加入できる皆保険を求め、アサルトライフルの販売禁止など銃規制に賛成し、移民は米国のために良いと考え、LGBTの権利と同性婚を認めるべきだとしているのだ。

 にもかかわらず、共和党が行政府(大統領)と議会の上下両院を握っているのはなぜか。理由はおそらく、トランプ大統領が選挙の勝ち方を心得ていることに加え、民主党支持者の多くが投票に行かないからではないかと思われる。

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 そこでムーア氏は、「民主主義は家のソファーに座って楽しむ観戦スポーツとは違う。皆がソファーから立ち上がり、自ら参加しなければならない」と、中間選挙での投票を呼びかけている。

 さらに民主主義が危機にさらされるなか、オバマ前大統領も立ち上がった。オバマ氏は「前大統領は現職を非難しない」という伝統を破り、トランプ大統領の偏見と分断に満ちた政治を名指しで非難した。

 そしてシャーロッツビルでの白人至上主義者と反対派の衝突で死者が出た事件にも言及し、トランプ大統領が白人至上主義者を明確に非難しなかったことについて、「ナチスの信奉者に対して立ち上がり、明確に意見を言うべきです。“ナチスは邪悪だ”というのがそんなに難しいことでしょうか?」と批判した。

 オバマ氏は9月初めから民主党候補の応援に加わり、「今こそ、政治に正気を取り戻そう。下院の主導権を奪還するチャンスだ」と、有権者に訴えかけている。

 現職と前任の大統領が真っ向から対立しながら、中間選挙に向けて遊説を展開するのは異例の事態だ。米国ははたして邪悪な指導者から民主主義を守ることができるだろうか。

(ジャーナリスト 矢部 武)